異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

◇23 思い出のアップルパイ

 私は今、キッチンでりんごを煮詰めている。

 ジャム? いや、違う。今オーブンも予熱中だ。

 そう、お菓子作りをしている。


「ナオ?」

「あ、魚獲り終わった?」

「終わった。ここやけに暑いな」

「コンロとオーブン付いてる」

「マジか、暑いわけだ」


 今私結構汗だくです。外も熱いしここも火が付いてるからマジで熱い。汗臭いかも。これ終わったらお風呂に直行だな。

 でも、それなのにどうしてこんなことをしてるのか。


「りんごか」

「うん、アップルパイ作ろうと思って」

「アップルパイ?」

「うん、好きなんだ」


 実は、アップルパイは江口家では特別なお菓子なのである。

 まぁ、お母さんが得意なお菓子だって事もあるけれど。だから誕生日の時とか、何か特別な日にはこれが出てくる。


「私、カスタード入りが好きなんだよね。でも、カスタード入りって結構難しいじゃん? だから今日ちょっと頑張ってみようかなって」

「へぇ、カスタード入りか」


 お母さんの作るカスタード入りのアップルパイ、私結構好きだった。もう味は絶対忘れないくらい食べたし。

 しばらく食べてなかったからなぁ。だって、何か市販のアップルパイは食べる気がしなかったんだよね。

 地球の材料じゃないからたぶんお母さんのアップルパイの味を再現する事は出来ないけれど、でも食べたい。

 実は昨日、もうパイ生地を作っている。だから今日はカスタードとりんごを作ってからオーブンで焼き上げればいい。

 上手くいくかな。今まで私お母さんと一緒に作るだけだったし。


「で、あとは何作るんだ?」

「一緒にやってくれるの? ここ暑いよ」

「アップルパイってどうやって作るか知らないし」

「味見も?」

「当然だろ?」


 あはは、じゃあ頑張っちゃおうかな。

 カスタードって難しいけど、なんか頑張れそう。

 暑いけど。うん、暑いけど。でも熱中症にならないように水分取りつつやろう。


「出来た? こんな感じ?」

「味見役の出番か」

「出番です、熱いから気をつけて」

「うん、美味い」


 良かったぁ、じゃあ次だ。

 暑い中頑張ってカスタードを作って、パイ生地を型に敷いて、色々と敷き詰めて。

 最後はパイ生地を格子状にふたを閉めて、端には三つ編みのパイ生地を一周させた。なんか過去一上手に出来た気がする。

 さ、あとはオーブンさんよろしくお願いします。


「あち”~、オーブンの熱気すげぇな」

「という時に食べたい一品」

「バニラアイスだろ」


 よし、冷凍庫にあるバニラアイス、カモン。


「アップルパイにバニラアイストッピング、合いそう」

「バニラアイス食べる口実か?」

「さ~どうでしょ~」


 キッチンは熱気がヤバイ。バニラアイス出したけど溶けそうだ。だから食べる分をさっさとお皿に乗せて仕舞おう。

 いやぁ、我ながら頑張って作ったよ。バニラアイス。これがなきゃこの真夏は乗り越えられないわ。てか、船の上が地球よりも暑い気がする。やばいなマジで、アイスみたいに溶けそう。それでいて夜はひんやりなんだけどさ。



 待ち時間中にアイスを堪能して、話している内にオーブンから音楽が。設定した時間になったらしい。

 開けてみるか、とヴィンスがオーブンを開けてくれて。確認したら、うん、良い感じ!

 じゃあオーブンから出そうか、と用意していた所にアップルパイを移動した。


「冷めてから型から外そうか」

「結構熱そうだな」

「そりゃあね」


 お母さんが話していた事を思い出しちゃった。私が小さい頃、オーブンから出したアップルパイをじ~っと見つめていたらしい。火傷するから絶対触っちゃダメよって怒られてたって。

 どんだけ食べたかったのよ、私。って自分で笑っちゃったけど。我ながら食いしん坊だな。

 
「もうそろそろでお昼?」

「ちょっと過ぎてる」

「え、マジ? ごめん」

「肉で許す」

「とんかつは無理」

「じゃあ照り焼きチキン」

「了解!」


 という事で、また熱い思いをしながら美味しくお肉を焼きました。

 そういえば冷蔵庫に麦茶作ろうと思ってたの忘れてたな。何で忘れてたんだろ。


「ねぇ、今日は外で食べようよ。ここ暑い」

「逃げよ、避難避難」


 まぁ、外も同じようなもんなんだけど。だから日陰になる所にテーブルを持って来て昼ご飯を食べる事にした。

 今度、ガーデンテーブルとパラソル買いたいな。でも買っても船に運ぶの大変か。いや、ヴィンスに頼めばいっか。と言っても前回国に寄った時えらい目に合ったからなぁ。もうあんなのはごめんだけど。

 まぁそんな事を考えつつ、ごちそうさまをしてから畑の収穫にと色々とやっているとおやつの時間に。うん、ちょうどいいかも。あ、ちゃんとアイスもトッピングね。


「どう?」

「うま、今まで食べてきた中で一番美味い」

「いや、大袈裟(おおげさ)な」

「いや、まじで。これいくらでもいける」


 まぁ、お母さんのレシピ通りに作ったからな。作ったの私だけど。

 美味しそうに食べるヴィンスを見つつ、私も自分のアップルパイを一口。

 うん、美味しく出来てる。ちゃんと美味しい。

 けど……


「……」

「どうした」


 何か期待したわけではない。

 けど、なんか寂しく感じてしまう。

 お母さんのアップルパイを食べ過ぎちゃったのかな。


「んーん、何でもないよ」

「……」


 もし、材料を当時使っていたものと一緒にして作ったとしても、たぶん同じものは作れない。

 いや、それが当たり前か。


「……美味しい」


 たぶん、お母さんのアップルパイのレシピには、足りないものがある。

 お母さんが隠し味にしていたもの。


 〝愛情〟


「……なんてね」

「ん? なんか言った?」

「んーん、何でもないよ」


 うん、美味しい。


「このアップルパイ、どう?」

「ん? 美味い、俺結構これ好き」

「そっか、ありがと」

「……? また作ってよ」

「じゃ~、真夏が終わったらね」

「あはは、キッチンがサウナになるからな」

「マジで暑かった」

「それな」


 もっと腕を上げて美味しいアップルパイ、焼けるといいな。

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