異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!
◇25 え、なんなのこの人……?
頭がぐらぐらする。
何だろう、痛いわけではないのに、何だか船に乗って大きく揺らされてるような、そんな感覚。
うちの船は全く揺れないはずなんだけど。
二日酔い、とは違う。風邪を引いた時でもこんな感覚は味わった事がない。
なんだろう、これ。
「いかがしました、ナオさん」
「あ……え、と……」
「……そんなにご無理はなさらないで。少し横になりましょうか」
「は、い……」
何だろう、身体中から力が抜けてく。
よく、分からない。
とりあえず、眠くなってきた。
その眠気に抗う事なく、私はベッドの中で目を閉じた。
何か、暖かいものを感じる。
何だろう、でも、よく知ってるような。
「……気が付いたか?」
「……へ?」
「けどもうちょっと残ってるから」
「んっ!?」
目の前にいたのはヴィンス。眠っていた私の前にまたがってキスをしていたのだ。
いや、これ、なんか違う。
なんか、持ってかれてない……?
「よし、なんか気持ち悪かったりするか」
「へ?」
「頭は、大丈夫か」
気持ち悪いか、頭は大丈夫か。
え、何でそんな事今聞くの?
「俺の名前、言えるか」
「ヴィ、ンス」
「よし、なら大丈夫だろ」
ん? なんか話の意味が分からないんだけど……
「とりあえず、ここ出るぞ」
「へぁ!?」
よいしょ、と寝ていた私を抱き起こし持ち上げ、ベッドから出された。
なんかこれお姫様抱っこって言うんじゃなかったっけぇ!? ちょっと待ってよヴィンスさん!?
「なっなんで……」
「いいから、ここにいちゃ危険だ」
き、危険……?
と、思ったらこの部屋のバルコニーに続くドアを開け、そして……飛び降りた。
落ちるって思ったけど、ヴィンスだったからか自然とあまり怖くなかった。いや、でも思いっきり首絞めたかもしれない。ヴィンスの。
しかも今は暗い夜。寝静まっている。
「ど、どうしたのヴィンス」
「しぃー」
あ、逃げるみたいだから静かにしないとだよね。
屋敷の裏みたいなところをスイスイとくぐり抜け、気がついたら壁まで来ていて、ヴィンスはそれを最も簡単に一回ジャンプして静かに登った。
向こう側を確認し、また静かに降りて。
私、夜目がきかないから真っ暗でよく分からない。一体どこを走っているのだろうか。
と、思っていたら止まった。
ここは……何かの森の中?
「やぁーっと見つけましたよ、殿下」
誰か、男の人の声が聞こえてきた。私たちの目の前、木の影から出てきた、ローブを被った人。
ヴィンスが舌打ちをしてる。追っ手? もう見つかっちゃった?
でもこの人、殿下って言ったよね。殿下、ってなんか王族とかそういう人達の呼び方だよね。
「だいっっっっっぶお久しぶりですね、殿下」
なんか、めっちゃ力入ってませんでした? だいぶ、が。
「誰だ」
「おや、自分の部下の顔も忘れるなんて大丈夫ですか? 頭イカれてません?」
「いや、何言ってんだお前」
「ていうか、その金の瞳があるんですからサーセスト王国の王族ですって言ってるようなもんでしょ。なぁにが誰だですか」
あ、知り合いですね。てか、知らない国の名前が出たぞ? しかも、王族ですか。なんかすごい展開になってきたんですけど。どういう事っすか、ヴィンスさんよ。
「というか、殿下が女の子を誘拐するような方だとは思いもしませんでした。何かご事情があるようですが、ご説明いただけますよね」
「今忙しいんだが」
「さらってる最中だから?」
「アホか、助けてる最中だ、追っ手から逃げてるから場所を変えよう」
「承知しました」
と、移動した。
あの、説明してほしいのは私の方なんだが。と思いつつ、聞くに聞けない雰囲気だったので黙ってた。私ちゃんと空気は読めます。
辿り着いたのは、森を抜けた、静かな場所だった。川が流れてて、周りになーんにもない。後ろに森があるくらい。
あの、とりあえず降ろしてください、と頼むと普通に降ろしてくれた。
「初めまして、私、サーセスト王国第一王子付き秘書兼護衛役マクス・メストと申します」
「あ、はい、江口奈央です。あ、奈央が名前です」
「なるほど。今回はウチの王子がご迷惑をおかけしました、申し訳ない」
「おい」
いやいや、むしろ私の方がご迷惑をおかけしましただよ。すみませんヴィンス殿下。
「彼女は俺の命の恩人だ」
「はぁ、だから大人しくしていてくださいと何度も……いや、貴方にそれを求めることは間違いですね」
いや、護衛役さんよ、そこ諦めていいところ?
てか、こんなに仲良いのね。
「傭兵として隣国に忍び込んで、たびたび連絡を入れてくださっていたのに突然途絶えて陛下方もご心配なされていましたよ」
「遂にくたばったかってか」
「いやいや何おっしゃってるんですか、自分の息子にそんなこと思うわけないでしょ」
「口では何とでも言えるからな」
「はぁ、全く……ですが、とりあえず一度お帰りいただかないと私も国に帰れませんので申し訳ありませんが何が何でも連れて帰りますよ」
うわぁ、目がマジだ。これは、本当に帰らないといけない感じだな。
「……そうだな、一度帰るか」
あ、ホッとしてる。はぁぁぁぁ、と息吐いてるし。そこまでですか。
でも、帰っちゃうのか。うん、ご両親が心配してるだろうし、帰った方がいいよね。ここは私は口出ししちゃダメだし。
「だが、お前は一足先に戻れ」
「……」
「何だ、信じられないのか。逃げはしないから安心しろ」
うわぁ、護衛の人にまで信用されてないぞこの王子。いいのか? 本当にこれでいいのか?
「理由をお聞かせ願いたいのですが」
「船があるんだ」
「船?」
「それも特大の。だから俺らは海で行く。港で会おう」
……ん?
船で、行く?
「あの、ヴィンスさん?」
「もちろんナオも来るよな?」
「へ?」
「大事な大事なクルーをこんな所で船から追い出すなんて事、しないよな?」
……マジかよ。
こんなイケメンフェイスで迫ってくると、断れるわけないって分かっててやってるな?
「……ハイ」
「よし」
ほぉら、満足顔だ。
でも、なんか、ホッとした気持ちにはなってる、かも。
どうして? まぁ、ずっと一緒にいた仲間で、なんかずっと一緒にいようって約束したし。それに、ヴィンスいなくなったらシャロン君もいなくなっちゃうわけでしょ? じゃあまた私独りぼっちだ。となると……また何かあった時助けてもらえる人がいない。
いや、国に寄る必要が出来てしまってもヴィンスいなかったら私どうしたらいいのさ。頼りっぱなしだなって思っているけれど、それでもどうしようもないわけで。
だから、まだ一緒にいてくれる事が、とても嬉しいな。
さて、ヴィンスの策略(?)のせいで彼の故郷に向かうことになったのだが……
そもそも、私達は屋敷から抜け出した身。どうやって船に帰るのか全く分からない。
「ここからだと、だいたい3日ってところですかね。海からだと大回りになりますから」
「いや、あの船は速いからもっと早く着くだろう。準備をしておけよ」
「マジすか。じゃあ早く戻らないといけないじゃないですか。出発は?」
「すぐ」
え、これから? これから船に乗るの?
了解しました、では。そう言ってどこかへ行ってしまった。
けど、最後に一言。
「おつかい、頼んだぞ」
「はいはい」
なんてことを言っていたけど、一体何のことなのだろうか。
ま、いっか。
「さ、行こうか」
「そ、の……」
「話は後、まずは船だ」
「あ、はい」
今度は担がれ、走り出したヴィンス。私は……何も喋らなかった。ヴィンスもまた、何も喋らなかった。
港だろうか、真っ暗だけど磯の匂いがする。何となく海の音も。
「いるな。……10はいるか」
「え、兵隊さん?」
「あぁ、もしかしなくても俺らの船が目的だろう」
夜目がきかないから分からない。けど、ざわざわしてるのは分かる。結構いる事も。
え、じゃあこれどうするの。大きな声出して船にいるシャロン君呼ぶ? え、こんな暗闇であんな怖いのやるの!? 無理無理無理無理だってぇぇ!!
「とりあえず……よく掴まってろよ」
「ひぇ!?」
マジでビビった。この言葉は一番恐ろしい言葉だという事が分かっていたからだ。
叫びたい気持ちはあったけれど、今は真っ暗闇だったのでマジで頑張って抑えた。マジで頑張った。
怖いよぉぉぉぉぉ!! すんごく速いよぉぉぉぉぉ!! と心の中で叫んだけど。
「おいっ誰だッ!!」
「止まれッ!!」
なんて声が聞こえてきたけれど、避けているのか右に左にと方向が代わって。私後ろ向きだから全然分からないんだけど!!
けど、少しすると止まって。声はすぐそこで聞こえて来るのに、どうしてだろう。
「もう大丈夫だ」
「え?」
「自動防衛システムの範囲内に入った」
あ、ほんとだ。こっちまで入ってこない。もう船に乗る階段まで来てるし。
「じゃ、行くか」
「う、うんっ、出航!!」
夜の航海が始まったのだ。行き先は、サーセスト王国だ。
何だろう、痛いわけではないのに、何だか船に乗って大きく揺らされてるような、そんな感覚。
うちの船は全く揺れないはずなんだけど。
二日酔い、とは違う。風邪を引いた時でもこんな感覚は味わった事がない。
なんだろう、これ。
「いかがしました、ナオさん」
「あ……え、と……」
「……そんなにご無理はなさらないで。少し横になりましょうか」
「は、い……」
何だろう、身体中から力が抜けてく。
よく、分からない。
とりあえず、眠くなってきた。
その眠気に抗う事なく、私はベッドの中で目を閉じた。
何か、暖かいものを感じる。
何だろう、でも、よく知ってるような。
「……気が付いたか?」
「……へ?」
「けどもうちょっと残ってるから」
「んっ!?」
目の前にいたのはヴィンス。眠っていた私の前にまたがってキスをしていたのだ。
いや、これ、なんか違う。
なんか、持ってかれてない……?
「よし、なんか気持ち悪かったりするか」
「へ?」
「頭は、大丈夫か」
気持ち悪いか、頭は大丈夫か。
え、何でそんな事今聞くの?
「俺の名前、言えるか」
「ヴィ、ンス」
「よし、なら大丈夫だろ」
ん? なんか話の意味が分からないんだけど……
「とりあえず、ここ出るぞ」
「へぁ!?」
よいしょ、と寝ていた私を抱き起こし持ち上げ、ベッドから出された。
なんかこれお姫様抱っこって言うんじゃなかったっけぇ!? ちょっと待ってよヴィンスさん!?
「なっなんで……」
「いいから、ここにいちゃ危険だ」
き、危険……?
と、思ったらこの部屋のバルコニーに続くドアを開け、そして……飛び降りた。
落ちるって思ったけど、ヴィンスだったからか自然とあまり怖くなかった。いや、でも思いっきり首絞めたかもしれない。ヴィンスの。
しかも今は暗い夜。寝静まっている。
「ど、どうしたのヴィンス」
「しぃー」
あ、逃げるみたいだから静かにしないとだよね。
屋敷の裏みたいなところをスイスイとくぐり抜け、気がついたら壁まで来ていて、ヴィンスはそれを最も簡単に一回ジャンプして静かに登った。
向こう側を確認し、また静かに降りて。
私、夜目がきかないから真っ暗でよく分からない。一体どこを走っているのだろうか。
と、思っていたら止まった。
ここは……何かの森の中?
「やぁーっと見つけましたよ、殿下」
誰か、男の人の声が聞こえてきた。私たちの目の前、木の影から出てきた、ローブを被った人。
ヴィンスが舌打ちをしてる。追っ手? もう見つかっちゃった?
でもこの人、殿下って言ったよね。殿下、ってなんか王族とかそういう人達の呼び方だよね。
「だいっっっっっぶお久しぶりですね、殿下」
なんか、めっちゃ力入ってませんでした? だいぶ、が。
「誰だ」
「おや、自分の部下の顔も忘れるなんて大丈夫ですか? 頭イカれてません?」
「いや、何言ってんだお前」
「ていうか、その金の瞳があるんですからサーセスト王国の王族ですって言ってるようなもんでしょ。なぁにが誰だですか」
あ、知り合いですね。てか、知らない国の名前が出たぞ? しかも、王族ですか。なんかすごい展開になってきたんですけど。どういう事っすか、ヴィンスさんよ。
「というか、殿下が女の子を誘拐するような方だとは思いもしませんでした。何かご事情があるようですが、ご説明いただけますよね」
「今忙しいんだが」
「さらってる最中だから?」
「アホか、助けてる最中だ、追っ手から逃げてるから場所を変えよう」
「承知しました」
と、移動した。
あの、説明してほしいのは私の方なんだが。と思いつつ、聞くに聞けない雰囲気だったので黙ってた。私ちゃんと空気は読めます。
辿り着いたのは、森を抜けた、静かな場所だった。川が流れてて、周りになーんにもない。後ろに森があるくらい。
あの、とりあえず降ろしてください、と頼むと普通に降ろしてくれた。
「初めまして、私、サーセスト王国第一王子付き秘書兼護衛役マクス・メストと申します」
「あ、はい、江口奈央です。あ、奈央が名前です」
「なるほど。今回はウチの王子がご迷惑をおかけしました、申し訳ない」
「おい」
いやいや、むしろ私の方がご迷惑をおかけしましただよ。すみませんヴィンス殿下。
「彼女は俺の命の恩人だ」
「はぁ、だから大人しくしていてくださいと何度も……いや、貴方にそれを求めることは間違いですね」
いや、護衛役さんよ、そこ諦めていいところ?
てか、こんなに仲良いのね。
「傭兵として隣国に忍び込んで、たびたび連絡を入れてくださっていたのに突然途絶えて陛下方もご心配なされていましたよ」
「遂にくたばったかってか」
「いやいや何おっしゃってるんですか、自分の息子にそんなこと思うわけないでしょ」
「口では何とでも言えるからな」
「はぁ、全く……ですが、とりあえず一度お帰りいただかないと私も国に帰れませんので申し訳ありませんが何が何でも連れて帰りますよ」
うわぁ、目がマジだ。これは、本当に帰らないといけない感じだな。
「……そうだな、一度帰るか」
あ、ホッとしてる。はぁぁぁぁ、と息吐いてるし。そこまでですか。
でも、帰っちゃうのか。うん、ご両親が心配してるだろうし、帰った方がいいよね。ここは私は口出ししちゃダメだし。
「だが、お前は一足先に戻れ」
「……」
「何だ、信じられないのか。逃げはしないから安心しろ」
うわぁ、護衛の人にまで信用されてないぞこの王子。いいのか? 本当にこれでいいのか?
「理由をお聞かせ願いたいのですが」
「船があるんだ」
「船?」
「それも特大の。だから俺らは海で行く。港で会おう」
……ん?
船で、行く?
「あの、ヴィンスさん?」
「もちろんナオも来るよな?」
「へ?」
「大事な大事なクルーをこんな所で船から追い出すなんて事、しないよな?」
……マジかよ。
こんなイケメンフェイスで迫ってくると、断れるわけないって分かっててやってるな?
「……ハイ」
「よし」
ほぉら、満足顔だ。
でも、なんか、ホッとした気持ちにはなってる、かも。
どうして? まぁ、ずっと一緒にいた仲間で、なんかずっと一緒にいようって約束したし。それに、ヴィンスいなくなったらシャロン君もいなくなっちゃうわけでしょ? じゃあまた私独りぼっちだ。となると……また何かあった時助けてもらえる人がいない。
いや、国に寄る必要が出来てしまってもヴィンスいなかったら私どうしたらいいのさ。頼りっぱなしだなって思っているけれど、それでもどうしようもないわけで。
だから、まだ一緒にいてくれる事が、とても嬉しいな。
さて、ヴィンスの策略(?)のせいで彼の故郷に向かうことになったのだが……
そもそも、私達は屋敷から抜け出した身。どうやって船に帰るのか全く分からない。
「ここからだと、だいたい3日ってところですかね。海からだと大回りになりますから」
「いや、あの船は速いからもっと早く着くだろう。準備をしておけよ」
「マジすか。じゃあ早く戻らないといけないじゃないですか。出発は?」
「すぐ」
え、これから? これから船に乗るの?
了解しました、では。そう言ってどこかへ行ってしまった。
けど、最後に一言。
「おつかい、頼んだぞ」
「はいはい」
なんてことを言っていたけど、一体何のことなのだろうか。
ま、いっか。
「さ、行こうか」
「そ、の……」
「話は後、まずは船だ」
「あ、はい」
今度は担がれ、走り出したヴィンス。私は……何も喋らなかった。ヴィンスもまた、何も喋らなかった。
港だろうか、真っ暗だけど磯の匂いがする。何となく海の音も。
「いるな。……10はいるか」
「え、兵隊さん?」
「あぁ、もしかしなくても俺らの船が目的だろう」
夜目がきかないから分からない。けど、ざわざわしてるのは分かる。結構いる事も。
え、じゃあこれどうするの。大きな声出して船にいるシャロン君呼ぶ? え、こんな暗闇であんな怖いのやるの!? 無理無理無理無理だってぇぇ!!
「とりあえず……よく掴まってろよ」
「ひぇ!?」
マジでビビった。この言葉は一番恐ろしい言葉だという事が分かっていたからだ。
叫びたい気持ちはあったけれど、今は真っ暗闇だったのでマジで頑張って抑えた。マジで頑張った。
怖いよぉぉぉぉぉ!! すんごく速いよぉぉぉぉぉ!! と心の中で叫んだけど。
「おいっ誰だッ!!」
「止まれッ!!」
なんて声が聞こえてきたけれど、避けているのか右に左にと方向が代わって。私後ろ向きだから全然分からないんだけど!!
けど、少しすると止まって。声はすぐそこで聞こえて来るのに、どうしてだろう。
「もう大丈夫だ」
「え?」
「自動防衛システムの範囲内に入った」
あ、ほんとだ。こっちまで入ってこない。もう船に乗る階段まで来てるし。
「じゃ、行くか」
「う、うんっ、出航!!」
夜の航海が始まったのだ。行き先は、サーセスト王国だ。