天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする③

外交は鉄壁の微笑みを浮かべて

 私達の国は穏やかな気候で、資源、山、平野、海があり恵まれた地である。

「はじめまして。コンラッドと言います。ウィルバート……陛下とは旧知の中で、王太子時代から仲良くさせてもらっています。話に聞いていたより、実物のほうが可愛い王妃ですね。ウィルバート陛下より先に出会っていたら良かったです。残念ですよ」

 可愛い?気さくな方ね。私はあら……と言って、右頬に手をやり、頬を赤らめてみせる。

 白銀の髪に琥珀色の目をした彼は美形で、かつ王子としての気品もある。こんなふうに言われたら大半の女の子は勘違いしそうだ。
  
「はじめまして、リアンと申しますわ。陛下のご友人と聞きまして、お会いすること楽しみにしておりましたのよ」

 定型文のご挨拶をする。教科書どおりのお辞儀。小さく微笑みを浮かべ柔らかい物腰を心がける。どこから見ても普通の完璧な王妃。

「人の妻を口説かないでくれ。お祝いしに来てくれたんだろ?」

 ウィルバートは王の仮面を被っているが、仲が良いらしく、いつもよりは仮面をずらしていて、どこか優しげな雰囲気がする。

「別に口説いているつもりはないんですよ。本当に心から言っているんです。王妃様」

 ありがとうございますと嬉しい顔をしてみせる私。

 ……そろそろ顔の筋肉疲れてきたわね。頬の筋肉が休憩したいって言ってるわ。

「夕食もご一緒できるのかな?」

 えええーっ!!そろそろ昼寝タイムに入りたいんです!

「もちろんですわ。ぜひコンラッド殿下の国のお話をうかがいたいですわ」

 リアン、耐えるのよ。完璧な王妃を演じるのよ。ウィルバートにはバレてるらしく、隣で肩を震わせて笑いを堪えている。

「ん?ウィルバート、どうしたんですか?」

「いやいやいや、なんでもない。コンラッド、気にしないでくれ」

 ウィルバート!と私は半眼になりかけるが、鉄壁の微笑みというスキルを発動させて耐えに耐える。

 すぐに夕食の時間はやってくる。女の子の準備は長いのよ!時間かかるのよーっ!

 ゆっくりお風呂。肌の手入れ、ドレス、装飾品をあれじゃない!これじゃない!と選び、ウィルバートが今日の服は青色だから、私も青いドレスにしようとか……。

「お昼寝しようと思ったのに……」

「お嬢様、諦めてください」

 アナベルがそう言って私の金色の髪を流行りの結い方でセットしていく。

 コンラッド殿下の国は私達の国よりも2倍も国土のある大きい国なのだ。仲良くしておく必要がある。

 ウィルバートの統治する国は穏やかな気候で、資源、山、平野、海があり恵まれた地である……だから。我が国を虎視眈々と狙っている国はいくつか存在する。

 仲良くしておいて損はない。私の昼寝と引き換えに平和のために働こう。大きい代償だけど。

「お嬢様、ウィルバート様がもうすぐいらっしゃいますよ。ほらほら。笑顔ですよ!」

「今日の分の笑顔の容量は使いきっちゃったの。もう笑えないわ。怠惰に過ごして充電しなきゃ、無理よー!」

「演技してるからだろ?なんでそんな演技してるんだい?いつもより大人しいしさ」

 ガチャッと不遠慮にウィルバートがドアを開けて入ってきた。

「ま、また!ノックしなさいよって言ってるじゃなーいっ!」

「廊下まで聞こえるんだよー。ほら、王妃様。お手をどうぞ」

 ウィルバートが手を差し出す。エスコートしてくれる。

「コンラッドとオレは幼い頃からの付き合いだから、もう少し肩の力を抜いて付き合っても大丈夫だよ。なんでリアンは教科書どおりの王妃様を演じているんだい?」

 疲れるだろとウィルバートが言う。私はいろいろあるのよと言葉を濁した。

「まあ、別にいいかー。オレにだけ本当のリアンを見せてくれていればいいんだ。むしろ見せなくていいよ」

 ウィルバートはそれ以上追求せず、むしろ満足!とばかりに言うのだった。

「何言ってるのよ……」
 
 呆れたように私がいうと、ウィルバートは顔をしかめてみせた。

「あの顔を赤くなる仕草とか、演技とわかっていても嫌だった。オレだけにしてほしい」

 私はウィルバートの言葉に赤くなる。これは演技ではない……その私の表情の変化を優しく青の目で見つめる彼に私は慌てて言う。

「もうっ!夕食会へ行きましょっ!」

「お嬢様も陛下も相変わらず、仲がよろしくてなによりです」

 アナベルが私とウィルバートのやりとりをにこやかに見守っていたのだった。
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