天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする③
クイーンはシナリオ通りに動かない
夕食会は続いていた。
「ウィルバート、どうか我が国の申し出を受けて欲しい」
コンラッドがそう言う。シンシアの後宮入りの話らしい。
「国力を考えたらありがたい申し出と思うべきなんだろうと思うが、やはり答えは同じだ。断る。オレはオレのやり方でこの国を守っていく」
「干渉するなということですか?戦ではなく外交で交渉できるのに、断るんですか?獅子王ともあろう方が計算できなくなってませんか?」
オレが口を開くより先に、リアンが食後のお茶のカップをカチャンと音を立てて置く。
「皆、一度この部屋から出てくれる?私達、四人で話したほうが良いみたいね」
人払いする。戸惑いながら、メイドや給仕かかり、護衛達が出ていく。気が利くな……と思った時、リアンの演技が終わっていることに気づく。口調がコンラッド達の前でも普通になっている。
「リアン、種明かししてくれるのか?」
コンラッドとシンシアが種明かし?と聞き返す。
「あら?ウィルバートなら、薄々気づいていることもあるでしょう?」
挑発的な笑み。そして自信に満ちた彼女は席から立ち上がる。
ああ……そうだ気づいている……コンラッドのことを。コンラッドが焦りから苛立っていることもその原因も。リアンはお見通しだ。さすがと言わざるを得ない。
「それが本来の王妃の姿ですか?大人しくしていたんですね。なぜ隠していたんですか?食べ物の好き嫌いまで嘘を言いましたね?」
コンラッドの顔色が変わる。
リアンがフフンと小憎らしげに笑ったあと、ビシッとオレを指差す。
「私は優しい男とうまいこと言う男は信用しないことにしてるのよっ!そういう男は騙す天才なのよっ!」
「あ、なんか。オレ、今、ごめんって気持ちになった」
オレのことですか?ウィルとして近づいて実は王様でしたーと……いや、騙してたつもりはないんだけど。実は根に持ってた?
「我が国を取り込もうとする、そちらの思惑はわかってるのよ。ウィルバートの友人だと言うから、しばらく様子を見てあげたのよ」
「取り込むとはなんのことでしょうか?」
コンラッドは嘘をつくとき、コンラッドは目を一瞬上にやる……その仕草が出た。だから……やはりそうかと確信してしまった。
「あなたがここへ来る前から、調べてあったのよ。エイルシア王国の傍に兵力が集まっていること、それから戦に必要なものの値上がり、シンシア王女は捨て駒でしょう?そちらの王はどうもこの国を欲しがっているみたいね」
相変わらず、怠惰にしていろと言ってるのに、装ってるだけのリアンだな。いつから調べていたんだよ!?と思う。
「えっ!?お兄様!?」
シンシアが声をあげる。コンラッドは目を細める。どうやら、シンシアもコンラッドに騙されていたようだ。
「普通の王妃だと思っていたのに猫かぶっていたんですね」
「いや、かぶっていたのは猫じゃなくて、ライオンの方かもな。リアンの方が本来は獅子と表現するのに相応しい」
オレが言うとリアンがもっと可愛い動物にしなさいよと注文をつけてくる。……余裕あるなぁ。
「シンシアのことも調べ済みよ。王宮にすら入れてもらえない王女らしいわね。血が繋がっているかも怪しいという噂だけど?あなたは戦で解決するか、それとも内部から干渉し、取り込むつもりか見極めにきたのよね?」
コンラッドの方へ遠慮なく近づき、リアンは睨みつけた。
「どちらもさせないわよ」
「どうやって?」
睨み返すコンラッド。
「コンラッド……」
オレが名を呼ぶと、グッと悔しげに顔を歪めた。
「どうか知らない振りをしてウィルバート、受け入れてください。国政に多少口を出されることになりますが……戦をし、敗戦するとなるとこの国の立場はもっと悪くなります」
多少なんて嘘だと子供でもわかることだ。どんどん切り取られていくのは目に見える。オレは嘆息した。
「コンラッドはオレが負けると思ってるのか?」
「勝つつもりですか?我が国のほうが兵力も国力もありますよ。いくら獅子王と呼ばれたあなたでも無理ですよ」
「リアンとのチェス勝負はどうだった?勝てそうで勝てない。そんな場合はいくらでもある。力の差かあるとしても、甘く見るなよ」
コンラッドはオレの言葉に少し悲しそうな顔をした。
「敵同士になりたくないんです」
「もちろん、オレもそう思っている」
コンラッドとオレの視線が合わさる。昔の記憶が一瞬よぎる。笑い合って王宮の庭園を走る。オレの母が亡くなったときは幼いコンラッドは同じように悲しんでくれた。涙目になりながら一礼し、弔問に来ていた。
だが無邪気な幼い頃とは違う。今の互いの立場によって、簡単に関係はバラバラにされる。リアンはそれをしたくなくて……最初は様子を見ていたのだ。
……オレのために。オレが友人だと言ったからだ。急がず、コンラッドの思惑を確認するように、剥がしていった。
コンラッドはコンラッドで戦いを避けるために自国の王が納得できる形でオレの国を平和的に手に入れようとしたんだろう。
「これから一戦交えることになるかもな……コンラッドありがとう。オレのために考えてくれたことは嬉しく思うよ」
「ウィルバート!父王は本気です!」
「わかってる。だけどこの国を渡せないし、この国を好き勝手にさせることもできない」
コンラッドが考えたシナリオはシンシアを嫁がせて、この国を少しずつ蝕み、取り込んでいく。気づけば傀儡の王、属国が出来上がっている。もし、その過程で失敗してもシンシアは王家の血は薄いからどう扱われても構わない。優しいようで残酷なシナリオだった。
しかしそのシナリオはリアンが破り捨てた。最初から破り捨てるつもりだった。オレが決断すればいつだって。
「二度目のチェックメイトですわね。コンラッド王子。この国もキングのウィルバートも渡しませんわ」
そう勝ち気なクイーンは笑った。
まぐれではない。そうだ。リアンは負ける勝負はしない。ただ、少しだけ勝ち気な笑みが今回は曇っていたのだった。
「ウィルバート、どうか我が国の申し出を受けて欲しい」
コンラッドがそう言う。シンシアの後宮入りの話らしい。
「国力を考えたらありがたい申し出と思うべきなんだろうと思うが、やはり答えは同じだ。断る。オレはオレのやり方でこの国を守っていく」
「干渉するなということですか?戦ではなく外交で交渉できるのに、断るんですか?獅子王ともあろう方が計算できなくなってませんか?」
オレが口を開くより先に、リアンが食後のお茶のカップをカチャンと音を立てて置く。
「皆、一度この部屋から出てくれる?私達、四人で話したほうが良いみたいね」
人払いする。戸惑いながら、メイドや給仕かかり、護衛達が出ていく。気が利くな……と思った時、リアンの演技が終わっていることに気づく。口調がコンラッド達の前でも普通になっている。
「リアン、種明かししてくれるのか?」
コンラッドとシンシアが種明かし?と聞き返す。
「あら?ウィルバートなら、薄々気づいていることもあるでしょう?」
挑発的な笑み。そして自信に満ちた彼女は席から立ち上がる。
ああ……そうだ気づいている……コンラッドのことを。コンラッドが焦りから苛立っていることもその原因も。リアンはお見通しだ。さすがと言わざるを得ない。
「それが本来の王妃の姿ですか?大人しくしていたんですね。なぜ隠していたんですか?食べ物の好き嫌いまで嘘を言いましたね?」
コンラッドの顔色が変わる。
リアンがフフンと小憎らしげに笑ったあと、ビシッとオレを指差す。
「私は優しい男とうまいこと言う男は信用しないことにしてるのよっ!そういう男は騙す天才なのよっ!」
「あ、なんか。オレ、今、ごめんって気持ちになった」
オレのことですか?ウィルとして近づいて実は王様でしたーと……いや、騙してたつもりはないんだけど。実は根に持ってた?
「我が国を取り込もうとする、そちらの思惑はわかってるのよ。ウィルバートの友人だと言うから、しばらく様子を見てあげたのよ」
「取り込むとはなんのことでしょうか?」
コンラッドは嘘をつくとき、コンラッドは目を一瞬上にやる……その仕草が出た。だから……やはりそうかと確信してしまった。
「あなたがここへ来る前から、調べてあったのよ。エイルシア王国の傍に兵力が集まっていること、それから戦に必要なものの値上がり、シンシア王女は捨て駒でしょう?そちらの王はどうもこの国を欲しがっているみたいね」
相変わらず、怠惰にしていろと言ってるのに、装ってるだけのリアンだな。いつから調べていたんだよ!?と思う。
「えっ!?お兄様!?」
シンシアが声をあげる。コンラッドは目を細める。どうやら、シンシアもコンラッドに騙されていたようだ。
「普通の王妃だと思っていたのに猫かぶっていたんですね」
「いや、かぶっていたのは猫じゃなくて、ライオンの方かもな。リアンの方が本来は獅子と表現するのに相応しい」
オレが言うとリアンがもっと可愛い動物にしなさいよと注文をつけてくる。……余裕あるなぁ。
「シンシアのことも調べ済みよ。王宮にすら入れてもらえない王女らしいわね。血が繋がっているかも怪しいという噂だけど?あなたは戦で解決するか、それとも内部から干渉し、取り込むつもりか見極めにきたのよね?」
コンラッドの方へ遠慮なく近づき、リアンは睨みつけた。
「どちらもさせないわよ」
「どうやって?」
睨み返すコンラッド。
「コンラッド……」
オレが名を呼ぶと、グッと悔しげに顔を歪めた。
「どうか知らない振りをしてウィルバート、受け入れてください。国政に多少口を出されることになりますが……戦をし、敗戦するとなるとこの国の立場はもっと悪くなります」
多少なんて嘘だと子供でもわかることだ。どんどん切り取られていくのは目に見える。オレは嘆息した。
「コンラッドはオレが負けると思ってるのか?」
「勝つつもりですか?我が国のほうが兵力も国力もありますよ。いくら獅子王と呼ばれたあなたでも無理ですよ」
「リアンとのチェス勝負はどうだった?勝てそうで勝てない。そんな場合はいくらでもある。力の差かあるとしても、甘く見るなよ」
コンラッドはオレの言葉に少し悲しそうな顔をした。
「敵同士になりたくないんです」
「もちろん、オレもそう思っている」
コンラッドとオレの視線が合わさる。昔の記憶が一瞬よぎる。笑い合って王宮の庭園を走る。オレの母が亡くなったときは幼いコンラッドは同じように悲しんでくれた。涙目になりながら一礼し、弔問に来ていた。
だが無邪気な幼い頃とは違う。今の互いの立場によって、簡単に関係はバラバラにされる。リアンはそれをしたくなくて……最初は様子を見ていたのだ。
……オレのために。オレが友人だと言ったからだ。急がず、コンラッドの思惑を確認するように、剥がしていった。
コンラッドはコンラッドで戦いを避けるために自国の王が納得できる形でオレの国を平和的に手に入れようとしたんだろう。
「これから一戦交えることになるかもな……コンラッドありがとう。オレのために考えてくれたことは嬉しく思うよ」
「ウィルバート!父王は本気です!」
「わかってる。だけどこの国を渡せないし、この国を好き勝手にさせることもできない」
コンラッドが考えたシナリオはシンシアを嫁がせて、この国を少しずつ蝕み、取り込んでいく。気づけば傀儡の王、属国が出来上がっている。もし、その過程で失敗してもシンシアは王家の血は薄いからどう扱われても構わない。優しいようで残酷なシナリオだった。
しかしそのシナリオはリアンが破り捨てた。最初から破り捨てるつもりだった。オレが決断すればいつだって。
「二度目のチェックメイトですわね。コンラッド王子。この国もキングのウィルバートも渡しませんわ」
そう勝ち気なクイーンは笑った。
まぐれではない。そうだ。リアンは負ける勝負はしない。ただ、少しだけ勝ち気な笑みが今回は曇っていたのだった。