天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする③

天才彼女は不安になる

 静かな月のない夜。後宮のテラスに出る。

「つまりオレの友人だから、演技し、様子を見ていたと?」

「そうよ。ウィルバートが少しウィルの部分も見せていたから、きっと親しい方なのだと思ったのよ……大切な友人なんだなって」

「一人にしてくれといったのは……」

「情報分析にいそがしかったのよ」

「のんびりと怠惰にすごしてるのをわざとコンラッドに見せていたのは……」

「もちろん私の本性を欺くためよ」

「まさか……あのアマーズンの実も?」

「ああ言えば、嫌がらせで必死にアマーズンの実を集めて来ると思ったのよ。美味しかったわ」

「夜会で顔色が悪かったのは?」

 そこも!?そこも追求してくるの!?

 他の人が見たら、二人が仲睦まじく夜の語らいをしているようにしか見えないだろうが……。

 私への尋問タイムになっている。ずっと黙っていたから、観念して素直に話しているわけだけど……。

「内緒よ……って言いたいけど………ほんとは嫌だったの。………その……シンシアとウィルバートが踊る姿を見るのが嫌だったの。自分で言っておいてなんだけど………あの時、ウィルバートが踊らなければ、あなたが非礼だと言われて、悪者になるし……私も心が狭いと思われるし……立場を悪く………っ!?」

 バッとウィルバートか私を抱きしめる。え!?ど、どういうこと!?

「ちょっと!?ウィルバート!?離しなさいよっ!まだ話は途中なのよ」

「やだ。離さない」

 モゾモゾとウィルバートの胸の中でもがくが、びくともしない。

「なんなの!?その子供っぽさ!?えーと……でも、あなたの……私一人でかまわないと言ってくれる気持ちを私は信じたわ。つまり……気持ちを利用したのよ」

「どういうことだ?」
 
 ウィルバートに隙ができた瞬間にそっと私は体を離す。私は真顔になる。

「シンシア様を内部に入れれば、あの国からの干渉を受けるようになる。政治も軍事もすべて。それがあの国の策略。戦わずして侵略していく。内部から少しずつ蝕むようにね。思ったよりウィルバートの意思が強くて、思い通りにはならなかった……でも……これで戦は避けれないわ……良かったのか悪かったのか……」

 私はウィルバートに選択するように仕向けながら、きっと彼は私を選ぶだろうと思っていた。ウィルバードを信じていた。

 だけど……もしこれが純粋に王女をこちらの国の王妃にと言う話なら別だった。きっと私は国のためにウィルバートに娶るように勧めていた。

 ……そんな計算をする女なのだ。私は。そのことに彼は気づいているのだろうか?

「リアン、なにそんなに不安な顔をしている?此処から先はオレの仕事だ。もう気にするな。オレは傀儡になりたくないし、今のままの国が良い」

「うん……その選択肢を選んでくれてよかったと思うの。でもね……私はこれからもっと可愛げのない王妃になるわ」

「どういうことだ?」

 それはまだ言えないわと私は暗い月のない夜で良かったと思う。あまり互いの表情が見えないから。

「……無茶するなよ。オレはリアンに弱いウィルの部分を見せ、知られている。だけど今はリアンが傍にいるから、傷つくことは怖くない。今回もきっとリアンがいなければ、コンラッドに仕掛けられたことは、かなりショックを受けていただろうと思う。でも、まあ、まったく気づいていなかったわけじゃない。今回のコンラッドに違和感を最初から感じてはいたんだ。リアンが気にすることは何もない」

 そっと私の頬を手で撫でる。

「私はウィルバートの安らぐ場所にもなれないし、こんな計算高い女だし、策を練るような可愛げのない女だし……あなたのことも騙しているのかもよ?」

 嫌われたらどうしよう?そんなことを考える弱い部分の私がいる。

「ちゃんとリアンに癒やされてるよ?なんなら、騙してくれても構わないよ。リアンになら騙されてもいいよ。そんなリアンが良いと選んだのはオレだ……師匠の私塾にいたときから君のこと好きだったんだ。今さらだろう?そんなことで悩んでたのか?」

 コクリと私が頷いた。暗いから気持ちが見透かされるのかしら。……違う。ウィルバートだからだ。

「騙すなら上手く騙してくれ」

 そう言って優しく笑うウィルバートは昔のようなウィルの表情をしていた。私にいろいろ巻き込まれても、なぜか楽しそうで、いつも側にいたウィル。

 これから起こるべきことが起き、終った後も同じように私に接してくれる?笑いかけてくれる?

 今はまだ……見えない先を私は見ている。
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