天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする③

動き出すリアン

「まあ!素敵な靴ね。今回もありがとう」 

「いえ、リアンお嬢様のお役に立てるのは嬉しい限りです」

 買い物……ではない。私の実家のクラーク家の商人が新たな情報を持ってきた。紙切れをスッと靴から抜き取り、自分のドレスの縫い目に隠した。

 帰って良いわよと言おうとした時だった。

「おや?リアン様のご実家は商家でしたね。何か良いものがありますか?のんびりとお買い物とは良いですねぇ」

 まためんどくさい人が来たわね。私はクルッと振り返り、ほほ笑む。

「ええ。なにかコンラッド殿下も欲しいものがありましたら、なんなりとお申し付けください」

「うーん……ウィルバートがほしいな」

 その答えの意味の深さに私は目を鋭く細めかけるが、やはり表情を変えないように笑顔を作り上げて、慎重に言葉を選ぶ。

「フフッ。本当にコンラッド殿下は陛下のことがお好きなのですね」

「尊敬し、いつか超えたいと思える存在ですよ。それなのに……つまらない女性を傍におくなんて……」

 それは私のことかしら?そろそろコンラッド王子は本性を私の前で出してきたわね。

「コンラッド王子、こんな話をご存知?カラスはもともと白い鳥であった。それが黒くなったのは何故か?」

「え?いや?」

「他の鳥の色が羨ましくて欲しくなったカラスはたくさんの色を集めて自分の体にかけた。その瞬間、美しい白い羽は黒に染まっていく」

 コンラッド王子と私は静かに語りかける。これはあなたに対する忠告よ。

「どういう……」

「深い意味はありませんわ。子どもにお話するようなただの物語ですわ」

 私はスタスタとコンラッド王子を背にして去る。そしてクラーク家からの情報を開く。クシャッと握り潰してから、即座に魔法の炎で燃やした。

 必要な情報はあらかた揃った。

 私はウィルバートを渡さないし、この国も守るわよ。
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