来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜
「俺の父母は……俺が、この魔力で殺した──……」
「!!」
落とされた爆弾に、私は思わず息をのむ。
「殺……した? オズ様が?」
何かの間違いでは?
だってオズ様は、自分の両親を殺すような人には、悪い魔法使いには見えないもの。
「君はこのジュローデル公爵家については知っているのか?」
ジュローデル公爵家について。
王家の姫が降嫁した最も力の強い公爵家という表の歴史についてか。
それともその力を恐れた王家によって実質追放された歴史か。
どちらのことかはわからないけれど、私はゆっくりと頷いた。
「はい。ドルト先生から教えていただきました。表の歴史も……裏の、歴史も……。一応、理解しているつもりです」
私が告げると、特段驚く様子もなく「そうか」とだけ漏らすオズ様。
「まぁ、あいつならすぐにでも言うだろうとは思っていた」
「ドルト先生への信頼は!?」
「こういうことに関しては0だな。あいつは口から生まれてきたようなものだから。だけど、分別はつく男だ。どうせ俺に関してはなにも言っていないんだろう? ドルトも、まる子も、カンタロウも」
それぞれの性格をよく理解した上、ある意味で信頼しているようなその言葉に、私は小さくうなずいた。
「ん。まぁ、公爵家についてはそういうことだ。追放されたのは俺の祖父母でな、それでも祖父母も、そして父母も、仲睦まじくこの小さな領地を守り続けてきた。町の名産として酒造りを進めたのも祖父母だ。たとえ追放されても、平和な町で、皆仲良く、幸せだった……。ある日俺は母の誕生日に氷の花を作りたくて、一人、裏庭で魔法を使ってしまった。全属性持ち《オールエレメンター》の俺は、危険だからと一人で使うことは禁じられていたのに……。結局魔力暴走を起こして、裏庭一帯を全属性の魔法が飛び交った。父と母はすぐに気づいて、俺を抱きしめ、落ち着かせようとした。すると少しずつ魔力が弱まっていって、やがて魔力暴走は止まった。……が……俺が目を開けると、父と母は──俺の氷の刃に貫かれていた……。落ち着いた俺に、『オズが無事でよかった』と、そう安心したように言い残して、そのまま息を引き取った……」
魔力の……暴走……。
お父様とお母様の死を目の当たりにしたオズ様の心中は、どのようなものだったのか。
私には想像もつかない。
でも、オズ様がどれだけお父様とお母様に愛されていたのかぐらいは、想像できる。
自分の身を挺してまでオズ様を守るなんて愛されている証拠だ。
……もしも私だったら……お父様とお母様は、私を守ろうとしてくれるかしら?
自分が死ぬというのに、あなたが無事でよかった、なんて、言ってくれるかしら?
……悲しいことに、そんな場面がどうしても浮かんでこない。
もしかして──。
──違う。
私は──。
──違う、やめて。
愛されてなんか、いない──……?
「それが二十年前。俺が五歳の時の出来事だ」
思考の中に沈みかけた私の耳に、オズ様の深い声が届いて再び意識が浮上する。
そういえば、この屋敷に来た時、この屋敷に人が入ったのは二十年ぶりだって言ってた。
それはきっと、オズ様のお父様たちのお葬式……。
それからずっと、一人で暮らしてきたの?この人は。
この大きなお屋敷で……。
「っ、まさか……」
気づいてしまった。
全て合点がいく。
「まさか、悪い魔法使いの噂を流したのは……」
「……あぁ。俺だ」
「!!」
「変装して町に噂を流すと、面白いくらいに人が寄り付かなくなった。君は例外みたいだが」
うぐっ。
それだけ聞いたら私はただの変人みたいじゃないか。
でもそうか。
オズ様は自分で怖い魔法使い噂を流すことで、自分の魔力から他人を守っていたんだ。
「……やっぱり……やっぱりオズ様は、とても優しい魔法使いです」
「そんなことはない」
「いいえ。とても……とても優しいです。私、オズ様が悪い魔法使いでよかった。だって、悪い魔法使いのうわさがあったから、私はあなたを探したんですもの」
痛いのは嫌だ。
苦しいのも嫌だ。
たくさん経験してきたからこそ、もうしたくない。
今瀬を諦めて来世に行くならば、楽に行きたかった。
だから探したんだもの。悪い魔法使いを。
「っ……、少し、話過ぎたな。薬茶、いただこう」
ほんのり顔と耳を赤く染めて、オズ様は両手で包んだままのカップに口をつけ、ごくりと一口飲んだ。
「!! これは──!!」
「オズ様?」
ま、まさか、分量間違えた!?
それともお味が悪かった?
ど、どど、どうしよう!?
逆効果とかだったら……。
「すごい……。身体が、楽になる……」
「──へ?」
身体が、楽になる?それって、効果が出たってこと?私、ちゃんとしたもの作れたの?
「あ、あの、これであってましたか? 変じゃないですか? 一応まる子やカンタロウに教わりながら作ったんですけど……」
「あぁ。間違いない。いや、それ以上だ。……この茶葉には聖なる魔法が──光魔法が施されている」
へ……?
ひかり……まほう……?
「えぇぇぇぇえええええええ!?」
「!!」
落とされた爆弾に、私は思わず息をのむ。
「殺……した? オズ様が?」
何かの間違いでは?
だってオズ様は、自分の両親を殺すような人には、悪い魔法使いには見えないもの。
「君はこのジュローデル公爵家については知っているのか?」
ジュローデル公爵家について。
王家の姫が降嫁した最も力の強い公爵家という表の歴史についてか。
それともその力を恐れた王家によって実質追放された歴史か。
どちらのことかはわからないけれど、私はゆっくりと頷いた。
「はい。ドルト先生から教えていただきました。表の歴史も……裏の、歴史も……。一応、理解しているつもりです」
私が告げると、特段驚く様子もなく「そうか」とだけ漏らすオズ様。
「まぁ、あいつならすぐにでも言うだろうとは思っていた」
「ドルト先生への信頼は!?」
「こういうことに関しては0だな。あいつは口から生まれてきたようなものだから。だけど、分別はつく男だ。どうせ俺に関してはなにも言っていないんだろう? ドルトも、まる子も、カンタロウも」
それぞれの性格をよく理解した上、ある意味で信頼しているようなその言葉に、私は小さくうなずいた。
「ん。まぁ、公爵家についてはそういうことだ。追放されたのは俺の祖父母でな、それでも祖父母も、そして父母も、仲睦まじくこの小さな領地を守り続けてきた。町の名産として酒造りを進めたのも祖父母だ。たとえ追放されても、平和な町で、皆仲良く、幸せだった……。ある日俺は母の誕生日に氷の花を作りたくて、一人、裏庭で魔法を使ってしまった。全属性持ち《オールエレメンター》の俺は、危険だからと一人で使うことは禁じられていたのに……。結局魔力暴走を起こして、裏庭一帯を全属性の魔法が飛び交った。父と母はすぐに気づいて、俺を抱きしめ、落ち着かせようとした。すると少しずつ魔力が弱まっていって、やがて魔力暴走は止まった。……が……俺が目を開けると、父と母は──俺の氷の刃に貫かれていた……。落ち着いた俺に、『オズが無事でよかった』と、そう安心したように言い残して、そのまま息を引き取った……」
魔力の……暴走……。
お父様とお母様の死を目の当たりにしたオズ様の心中は、どのようなものだったのか。
私には想像もつかない。
でも、オズ様がどれだけお父様とお母様に愛されていたのかぐらいは、想像できる。
自分の身を挺してまでオズ様を守るなんて愛されている証拠だ。
……もしも私だったら……お父様とお母様は、私を守ろうとしてくれるかしら?
自分が死ぬというのに、あなたが無事でよかった、なんて、言ってくれるかしら?
……悲しいことに、そんな場面がどうしても浮かんでこない。
もしかして──。
──違う。
私は──。
──違う、やめて。
愛されてなんか、いない──……?
「それが二十年前。俺が五歳の時の出来事だ」
思考の中に沈みかけた私の耳に、オズ様の深い声が届いて再び意識が浮上する。
そういえば、この屋敷に来た時、この屋敷に人が入ったのは二十年ぶりだって言ってた。
それはきっと、オズ様のお父様たちのお葬式……。
それからずっと、一人で暮らしてきたの?この人は。
この大きなお屋敷で……。
「っ、まさか……」
気づいてしまった。
全て合点がいく。
「まさか、悪い魔法使いの噂を流したのは……」
「……あぁ。俺だ」
「!!」
「変装して町に噂を流すと、面白いくらいに人が寄り付かなくなった。君は例外みたいだが」
うぐっ。
それだけ聞いたら私はただの変人みたいじゃないか。
でもそうか。
オズ様は自分で怖い魔法使い噂を流すことで、自分の魔力から他人を守っていたんだ。
「……やっぱり……やっぱりオズ様は、とても優しい魔法使いです」
「そんなことはない」
「いいえ。とても……とても優しいです。私、オズ様が悪い魔法使いでよかった。だって、悪い魔法使いのうわさがあったから、私はあなたを探したんですもの」
痛いのは嫌だ。
苦しいのも嫌だ。
たくさん経験してきたからこそ、もうしたくない。
今瀬を諦めて来世に行くならば、楽に行きたかった。
だから探したんだもの。悪い魔法使いを。
「っ……、少し、話過ぎたな。薬茶、いただこう」
ほんのり顔と耳を赤く染めて、オズ様は両手で包んだままのカップに口をつけ、ごくりと一口飲んだ。
「!! これは──!!」
「オズ様?」
ま、まさか、分量間違えた!?
それともお味が悪かった?
ど、どど、どうしよう!?
逆効果とかだったら……。
「すごい……。身体が、楽になる……」
「──へ?」
身体が、楽になる?それって、効果が出たってこと?私、ちゃんとしたもの作れたの?
「あ、あの、これであってましたか? 変じゃないですか? 一応まる子やカンタロウに教わりながら作ったんですけど……」
「あぁ。間違いない。いや、それ以上だ。……この茶葉には聖なる魔法が──光魔法が施されている」
へ……?
ひかり……まほう……?
「えぇぇぇぇえええええええ!?」