来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜
あったかい。
公爵家でお世話になってからの寝具はこれまで生きてきた中で使っていた寝具よりもふかふかで温かくて、毎日幸せな眠りをいただいているけれど、今日は格別あったかい。
とくんとくんと耳に打つ小さな音も心地良いし、上下するベッドマットの揺れも安心感を覚える。
何より時々頭上で聞こえる吐息がくすぐったくて……ん……?
──吐息……?
「!?」
勢いよく目を開けて顔を上げると、そこにはオズ様の超絶美しいご尊顔!!
な、な、何……?
一体何が起こっているの!?
えっと、確か私、昨日オズ様のために薬茶を作ってお届けして、それで──。
……あぁぁああああああああ!!!!
オズ様にしがみついて大泣きしたうえそのまま眠りこけてしまったんだわぁぁああああ!!
しかもちゃっかりオズ様のお布団にまで入り込んで……なんて図々しい居候……!!
と、とりあえず離れなければ……!!
そう思って身体を起こそうとするも、しっかりとオズ様にホールドされていて動けない。
「ん……こら。逃げるな」
どんどん抱きしめる力が強くなるんですけど!?
何……?
これはいったい……。
新手の罰!?
いや、これは罰というよりもむしろご褒美のような……。
だ、ダメだ。
早く起こさねば!!
「オズ様!! オズ様、起きてください!!」
「ん……? あぁ……セシリア……。……セシリア!?」
オズ様が飛び起きて私の身体が解放される。
と同時にぬくもりが去ったことに少しばかりの寂しさを感じたのは気のせいだと思おう。
「すみません、オズ様。私、寝ちゃったんです、よね? 大泣きしたうえ病床のオズ様に多大なるご迷惑をおかけしてしまって……!! 本当にすみませんっ!!」
「あ……いや、別に、迷惑とかじゃ……」
目が泳いでらっしゃる!!
や、やっぱり私、ものすごい迷惑を……。
「違うからな?」
「へ……」
「君が迷惑とか、そんなの考えたことはない。君といるのは別に苦痛じゃないし、前世の知恵を与えてくれて、薬茶を配る手伝いやドルトの診療の手伝いまでしてくれて領地を助けてくれている君には感謝してるし、信頼もしている。だからこそ、俺は君に俺のことを話したんだと思う。だから……あまり卑下するな」
オズ様……。
そんな、そんなこと……まるで私が、ここにいても良いと、居場所をもらっているみたいじゃないか。
「私は……ここにいてもいいんですか?」
口からポロリと零れた、願いにも似た問いかけに、オズ様はふわりとほほ笑んだ。
「あぁ。好きなだけ居たらいい。ここはもう、君の家でもあるんだから」
「!!」
私の、家……。
「オズーおはよー……ってうぁ!? 結局そのまま寝たの!? 同衾じゃん同衾!! 既成事実よぉおお!!」
「オズはむっつりだからなぁ」
「お前たち……」
まる子とカンタロウがノックもなしに入るなりに声を上げる。
その顔はニマニマとからかうようで、そしてどこか嬉しそうだ。
「と、とりあえず、君はすぐに部屋に戻って着替えを済ませること!!」
「は、はい!!」
私はベッドからすとんと降りると、パタパタと扉の方へと駆ける。
そういえば私、下着脱いだままだったんだわ!!
なんかすーすーすると思った……!!
急いで着替えて、食事の支度をしなきゃ。
「セシリア」
「はい? 何でしょう?」
後ろから声を掛けられ振り返ると、オズ様の赤く綺麗な瞳が私のそれを見つめる。
「君の居場所は、ここだ。それを忘れるな」
「!! はい……!! オズ様に綺麗に楽に痛みなく来世に送ってもらうまで、不束者ですが、オズ様のもとにいさせてください!!」
「……ぶれないな、君」
あなたが良いというのなら、願いは一つだけ。
もう少しだけ、ここにいさせてください。
私を、私が望む形で来世に送ることができるのは、あなただけ。
それまで私は、今世の私をしっかりと生きます。
私が来世へ向かう、その日まで──。