来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜
「まぁ……それでそのままにして帰ってらっしゃいましたの?」
「えぇ。もともと治療が終わったらすぐに帰るつもりだったし、オズ様が帰るというならば私はついていくだけだもの」
トレンシスの町。孤児院の庭。
昼下がりの日向ぼっこをしながら、ベンチでお茶をする私とルーシア。
孤児院に薬茶を届けた後に彼女とお茶をするのが、すっかりいつもの楽しみになっている。
「セシリア、大丈夫ですの? 大衆の眼に聖女の力を触れさせてしまって……。この町の者は公爵様やセシリアを守りたいから内緒にしていますが、他の領地ではそうとは限りませんでしょう? 聖女はセシリアなのだとバレたら、それこそ王家につかまってしまうのではなくて?」
「うっ……」
そうなのよね。
聖女が同時に二人存在するなんて聞いたことがない。
とすれば、お姉様か私か、ということになる。
妙な騒動になる可能性だって十分あり得る。
「……まぁ、何かあっても公爵様がセシリアを守ってくださいますわ」
「オズ様が?」
えっと……何でそこでオズ様?
「何とぼけた顔してますの? そういう仲なのでしょう?」
「そういう……って……?」
「だぁかぁらぁ!! 恋仲、なのでしょう?」
……はい?
「恋……仲……? …………えぇぇぇぇええええええ!?」
到底私とは思えぬほどの大声が出て、ルーシアが眉を顰めて耳をふさぐ。
だって仕方ないじゃないか。
こんな……こんな……驚かずにいられるわけがない。
先日覗きだした感情が再び顔を出す。
いかん。これはいかんぞ。
「そ、そんなに驚くことですの?」
「だ、だって!! オズ様と私は、そんな関係じゃ……」
ただの居候と家主だし。
私は助手であり家政婦(仕事内容は料理のみだけど)だし。
そんな……こ、恋仲とかじゃ……ないし。
「ちがいますの!? あんなにイチャイチャしておいて……違うと!?」
「イチャ!? そ、そんなことしてないよ!?」
ただ一緒に薬茶を届けにまわったり、一緒に帰って薬茶の世話をする。
イチャイチャなんてしてない。絶対に。
「大衆の面前で頭を撫でて良い雰囲気でしたわよ?」
「うっ……それは……」
「それにあなた方……気づいていないのかもしれませんが、よく目が合うと二人とも穏やかにほほ笑みあっているじゃありませんの」
「ふぁっ!? えっと……その……」
その行動理由は誤解であれ、なまじ事実であることでなにも反論のしようがない。
「えっと……、オズ様は、そういうのではなくて、えっと……私の……ご……」
「ご……?」
「ご主人さまよ!!」
「……え……」
あぁっ。すごい顔でルーシアが固まってしまった!!
わ、私、そんなに変なこと言ったかしら?
「公爵様、そんな趣味があったの……? 人は見かけによらないって言うけどまさかそんな……ご主人様とメイドシチュで楽しみたいなんて性癖があっただなんて……」
「せっ!? ち、ちがっ、それは誤解だからね!?」
オズ様の名誉にかけて!!
そんな特殊な癖はない……と、思う。
「そういうのではなくて……。私は、オズ様のご飯係、のようなもので……。御用が済めば(この世から)お暇《いとま》する身だから……」
「セシリア……?」
この町の皆が考えているような、そんな関係じゃない。
オズ様が優しいからここに置いてくれているだけで、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
だというのに、最近感じるこの感情は何なんだろう。
自分の中に存在するはずのない感情。
未知の感情に、ここのところは振り回されてばかりだ。
これの正体に気づいてはいけない。
そんな気がしてならない。
「……まぁ、良いのではありませんこと?」
「え?」
「あなたが公爵様をどう思っていても、公爵様があなたをどう思っていても。どんな関係であれ。きっと公爵様は、あなたを守ってくださるわ。だって公爵様があなたを見る目、とても優しいんですもの。あんな眼差しを向ける相手を、そう簡単に手放すわけがありません」
私を見る目が、優しい?
たしかにオズ様はいつもお優しいけれど……。
「物事はなるようにしかなりませんわ。だけどきっと、悪いようにはならない。私だって、魔力枯らしだとわかって、なるようにしかならなかった。でも、悪いようにはなりませんでしたわ。孤児院の皆さんはとてもいい人たちですし。それに気づくのに、かなりの年月がかかりましたけどね。だけど、今、とても幸せだと思えるのです。だからセシリアも、大丈夫、ですわ」
なるようにしかならない、か……。
そうね。考えても仕方がない。
そして、あれ以上に苦しむことなんてそうないのだから。
そう思えば幾分か気が楽になる。
「そうね。ありがとう、ルーシア。なるようになるわ、きっと」
だけどオズ様に迷惑がかかるならば、その時は──。
「えぇ。もともと治療が終わったらすぐに帰るつもりだったし、オズ様が帰るというならば私はついていくだけだもの」
トレンシスの町。孤児院の庭。
昼下がりの日向ぼっこをしながら、ベンチでお茶をする私とルーシア。
孤児院に薬茶を届けた後に彼女とお茶をするのが、すっかりいつもの楽しみになっている。
「セシリア、大丈夫ですの? 大衆の眼に聖女の力を触れさせてしまって……。この町の者は公爵様やセシリアを守りたいから内緒にしていますが、他の領地ではそうとは限りませんでしょう? 聖女はセシリアなのだとバレたら、それこそ王家につかまってしまうのではなくて?」
「うっ……」
そうなのよね。
聖女が同時に二人存在するなんて聞いたことがない。
とすれば、お姉様か私か、ということになる。
妙な騒動になる可能性だって十分あり得る。
「……まぁ、何かあっても公爵様がセシリアを守ってくださいますわ」
「オズ様が?」
えっと……何でそこでオズ様?
「何とぼけた顔してますの? そういう仲なのでしょう?」
「そういう……って……?」
「だぁかぁらぁ!! 恋仲、なのでしょう?」
……はい?
「恋……仲……? …………えぇぇぇぇええええええ!?」
到底私とは思えぬほどの大声が出て、ルーシアが眉を顰めて耳をふさぐ。
だって仕方ないじゃないか。
こんな……こんな……驚かずにいられるわけがない。
先日覗きだした感情が再び顔を出す。
いかん。これはいかんぞ。
「そ、そんなに驚くことですの?」
「だ、だって!! オズ様と私は、そんな関係じゃ……」
ただの居候と家主だし。
私は助手であり家政婦(仕事内容は料理のみだけど)だし。
そんな……こ、恋仲とかじゃ……ないし。
「ちがいますの!? あんなにイチャイチャしておいて……違うと!?」
「イチャ!? そ、そんなことしてないよ!?」
ただ一緒に薬茶を届けにまわったり、一緒に帰って薬茶の世話をする。
イチャイチャなんてしてない。絶対に。
「大衆の面前で頭を撫でて良い雰囲気でしたわよ?」
「うっ……それは……」
「それにあなた方……気づいていないのかもしれませんが、よく目が合うと二人とも穏やかにほほ笑みあっているじゃありませんの」
「ふぁっ!? えっと……その……」
その行動理由は誤解であれ、なまじ事実であることでなにも反論のしようがない。
「えっと……、オズ様は、そういうのではなくて、えっと……私の……ご……」
「ご……?」
「ご主人さまよ!!」
「……え……」
あぁっ。すごい顔でルーシアが固まってしまった!!
わ、私、そんなに変なこと言ったかしら?
「公爵様、そんな趣味があったの……? 人は見かけによらないって言うけどまさかそんな……ご主人様とメイドシチュで楽しみたいなんて性癖があっただなんて……」
「せっ!? ち、ちがっ、それは誤解だからね!?」
オズ様の名誉にかけて!!
そんな特殊な癖はない……と、思う。
「そういうのではなくて……。私は、オズ様のご飯係、のようなもので……。御用が済めば(この世から)お暇《いとま》する身だから……」
「セシリア……?」
この町の皆が考えているような、そんな関係じゃない。
オズ様が優しいからここに置いてくれているだけで、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
だというのに、最近感じるこの感情は何なんだろう。
自分の中に存在するはずのない感情。
未知の感情に、ここのところは振り回されてばかりだ。
これの正体に気づいてはいけない。
そんな気がしてならない。
「……まぁ、良いのではありませんこと?」
「え?」
「あなたが公爵様をどう思っていても、公爵様があなたをどう思っていても。どんな関係であれ。きっと公爵様は、あなたを守ってくださるわ。だって公爵様があなたを見る目、とても優しいんですもの。あんな眼差しを向ける相手を、そう簡単に手放すわけがありません」
私を見る目が、優しい?
たしかにオズ様はいつもお優しいけれど……。
「物事はなるようにしかなりませんわ。だけどきっと、悪いようにはならない。私だって、魔力枯らしだとわかって、なるようにしかならなかった。でも、悪いようにはなりませんでしたわ。孤児院の皆さんはとてもいい人たちですし。それに気づくのに、かなりの年月がかかりましたけどね。だけど、今、とても幸せだと思えるのです。だからセシリアも、大丈夫、ですわ」
なるようにしかならない、か……。
そうね。考えても仕方がない。
そして、あれ以上に苦しむことなんてそうないのだから。
そう思えば幾分か気が楽になる。
「そうね。ありがとう、ルーシア。なるようになるわ、きっと」
だけどオズ様に迷惑がかかるならば、その時は──。