来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜
SIDE オズ
王太子が流行り病に、か……。
あの病弱な男が今年の流行り病に、となると……。
「……五分五分、か」
正直奴がどうなろうと俺には関係ない。
一応親戚関係にあるクリストフ王太子とは、王都に行くと話をする機会も多い。
あいつからローゼリア・フェブリールの話は飽きるほど聞いた。
とても美しく愛らしい女性なのだと。
孤児院の慰問の際には、子供たちに手造りのマフィンを焼いて持ってきてくれる、 優しい人なのだと。
俺はただそれを聞き流していたが、今ならわかる。
そのマフィンはあの女じゃない。
セシリアが焼いたものだと。
あいつからは、ローゼリア・フェブリールの話は出ても、その妹の話は一度たりとも出ることはなかった。
だからか、俺はセシリアを見てもあの女の妹だとは気づけなかった。
彼女の境遇もすべて。
もっと早く知っていたなら……。
そんな思いが巡る。
「オズ、こっちの薬草の下処理、終わったよ」
「あぁ、ありがとう、まる子」
まる子にはローゼリアの棘を処理してもらっている。
見た目は美しいこの花の棘には毒がある。
危険薬草として厳重に保管していたが、棘以外には鎮静の効力がある。
あの女と同じ。
見た目の美しさに騙され使い方を間違えれば、強力な毒に蝕まれる。
まさかセシリアに毒入りの棘を取らせるわけにはいかないからな。
その点、精霊であるまる子には、毒は効かないから、こういう時には助かる。
「そういえば、カンタロウはどうした?」
「町を徘徊──……見回りがてら飛んでくるって言って朝から出ていったよ。そろそろお腹がすいて戻ってくるんじゃない?」
「……そうか」
まぁ、もともと神出鬼没な奴だ。
気にすることはないか。
にしても、セシリアはゆっくりできているだろうか?
彼女を王太子のもとにやりたくないのは、もちろんフェブリール男爵家に連れていかれたくないというのも、王家に囲われるのを避けたいというのもあるが、一番はただ、嫌だったからだ。
セシリアが他の男のもとに行くのが。
ドルトや師匠には思うことのなかった感情に、自分でも驚いている。
が……確かにそこにあるのは強い独占欲なのだと、気づいてしまった。
「はぁ……子どもか、俺は」
初めての感情に机に突っ伏して頭を抱える。
それを見てまる子がクスリと笑うのが聞こえた。
「笑うな」
「ごめんごめん。──オズはさ、やっぱりセシリアのことがとっても大切なんだよ。自分でも気づいてるんだろう? 他とは違う、って」
「っ……あぁ。わかってる。セシリアがいつの間にか自分の中で大きくなっていたことも、彼女が大切で、守りたい存在になっているということも」
それは認めるほかないだろう。
だが──。
「だが彼女もそうだというわけではない」
もしも拒絶されたら?
他の誰かに拒絶されたとしてもさほど傷つくことはないだろう。
だが、彼女に拒絶されるのは──想像するだけで胸が痛む。
「ふはっ、甘酸っぱいねぇ」
「だから笑うな」
「ごめんごめんって。でもさ、あの子はそんな子じゃないよ。あの子はオズをとても信頼しているし。今はもしかしたらそれは鳥の雛の刷り込みのようなものかもしれない。でもさ、オズが気持ちを見せたとして、それに流されるような弱い子でも、それを真っ向から拒絶するような臆病な子でもない。なんたって、悪い魔法使いの噂を知りながらも、オズを訪ねてきた子なんだからね。だから大丈夫だよ。もっとオズの気持ちを出してみたら?」
確かにそうかもしれない。
悪い魔法使いの噂を知りながら彼女は恐れることなく俺を見た。
弱くもない。
臆病でもない。
むしろある意味、彼女は誰よりも強い女性だ。
「……そうだな。少しずつ、だが……」
俺もこんな気持ちは初めてでどうしたらいいのかなんてわからないんだ。
そう焦ることもない。
「ん。僕らも応援するよ。それはもうトレンシスの町を上げて、ね!!」
「それはやめてくれ……」
げんなりする俺にまる子が笑った、その時だった。
バンッ!! ──「オズ!!」
大きな音を立てて勢いよくドアが開けられた。
「ドルト……騒々しいぞ。ノックを──」
「それどころじゃないんだよ!! セシリアちゃんが……セシリアちゃんが親父と王都に──!!」
「!? なんだと!?」
どういうことだ……。
セシリアが、王都に?
「まさか無理矢理!?」
「違う。あの子は、褒賞を願い出たんだ。自分が王太子殿下を治したら、トレンシスを認め、酒をトレンシス産として売り出すようにしてくれ、って」
「──っ!!」
まさかこの間の話を気にして……?
っ、俺のせいだ……!!
「すぐに向かう。ドルト、まる子、町を頼む。俺は馬で行く」
「わかったよ」
俺は二人にこの町のことを頼むと、厩につないでいた愛馬に乗り、王都へと駆けた。
王太子が流行り病に、か……。
あの病弱な男が今年の流行り病に、となると……。
「……五分五分、か」
正直奴がどうなろうと俺には関係ない。
一応親戚関係にあるクリストフ王太子とは、王都に行くと話をする機会も多い。
あいつからローゼリア・フェブリールの話は飽きるほど聞いた。
とても美しく愛らしい女性なのだと。
孤児院の慰問の際には、子供たちに手造りのマフィンを焼いて持ってきてくれる、 優しい人なのだと。
俺はただそれを聞き流していたが、今ならわかる。
そのマフィンはあの女じゃない。
セシリアが焼いたものだと。
あいつからは、ローゼリア・フェブリールの話は出ても、その妹の話は一度たりとも出ることはなかった。
だからか、俺はセシリアを見てもあの女の妹だとは気づけなかった。
彼女の境遇もすべて。
もっと早く知っていたなら……。
そんな思いが巡る。
「オズ、こっちの薬草の下処理、終わったよ」
「あぁ、ありがとう、まる子」
まる子にはローゼリアの棘を処理してもらっている。
見た目は美しいこの花の棘には毒がある。
危険薬草として厳重に保管していたが、棘以外には鎮静の効力がある。
あの女と同じ。
見た目の美しさに騙され使い方を間違えれば、強力な毒に蝕まれる。
まさかセシリアに毒入りの棘を取らせるわけにはいかないからな。
その点、精霊であるまる子には、毒は効かないから、こういう時には助かる。
「そういえば、カンタロウはどうした?」
「町を徘徊──……見回りがてら飛んでくるって言って朝から出ていったよ。そろそろお腹がすいて戻ってくるんじゃない?」
「……そうか」
まぁ、もともと神出鬼没な奴だ。
気にすることはないか。
にしても、セシリアはゆっくりできているだろうか?
彼女を王太子のもとにやりたくないのは、もちろんフェブリール男爵家に連れていかれたくないというのも、王家に囲われるのを避けたいというのもあるが、一番はただ、嫌だったからだ。
セシリアが他の男のもとに行くのが。
ドルトや師匠には思うことのなかった感情に、自分でも驚いている。
が……確かにそこにあるのは強い独占欲なのだと、気づいてしまった。
「はぁ……子どもか、俺は」
初めての感情に机に突っ伏して頭を抱える。
それを見てまる子がクスリと笑うのが聞こえた。
「笑うな」
「ごめんごめん。──オズはさ、やっぱりセシリアのことがとっても大切なんだよ。自分でも気づいてるんだろう? 他とは違う、って」
「っ……あぁ。わかってる。セシリアがいつの間にか自分の中で大きくなっていたことも、彼女が大切で、守りたい存在になっているということも」
それは認めるほかないだろう。
だが──。
「だが彼女もそうだというわけではない」
もしも拒絶されたら?
他の誰かに拒絶されたとしてもさほど傷つくことはないだろう。
だが、彼女に拒絶されるのは──想像するだけで胸が痛む。
「ふはっ、甘酸っぱいねぇ」
「だから笑うな」
「ごめんごめんって。でもさ、あの子はそんな子じゃないよ。あの子はオズをとても信頼しているし。今はもしかしたらそれは鳥の雛の刷り込みのようなものかもしれない。でもさ、オズが気持ちを見せたとして、それに流されるような弱い子でも、それを真っ向から拒絶するような臆病な子でもない。なんたって、悪い魔法使いの噂を知りながらも、オズを訪ねてきた子なんだからね。だから大丈夫だよ。もっとオズの気持ちを出してみたら?」
確かにそうかもしれない。
悪い魔法使いの噂を知りながら彼女は恐れることなく俺を見た。
弱くもない。
臆病でもない。
むしろある意味、彼女は誰よりも強い女性だ。
「……そうだな。少しずつ、だが……」
俺もこんな気持ちは初めてでどうしたらいいのかなんてわからないんだ。
そう焦ることもない。
「ん。僕らも応援するよ。それはもうトレンシスの町を上げて、ね!!」
「それはやめてくれ……」
げんなりする俺にまる子が笑った、その時だった。
バンッ!! ──「オズ!!」
大きな音を立てて勢いよくドアが開けられた。
「ドルト……騒々しいぞ。ノックを──」
「それどころじゃないんだよ!! セシリアちゃんが……セシリアちゃんが親父と王都に──!!」
「!? なんだと!?」
どういうことだ……。
セシリアが、王都に?
「まさか無理矢理!?」
「違う。あの子は、褒賞を願い出たんだ。自分が王太子殿下を治したら、トレンシスを認め、酒をトレンシス産として売り出すようにしてくれ、って」
「──っ!!」
まさかこの間の話を気にして……?
っ、俺のせいだ……!!
「すぐに向かう。ドルト、まる子、町を頼む。俺は馬で行く」
「わかったよ」
俺は二人にこの町のことを頼むと、厩につないでいた愛馬に乗り、王都へと駆けた。