来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜
なんて青白い肌。
荒い呼吸の中に混ざるごぽごぽという雑音。
肺が炎症しているんだわ……。
早く楽にして差し上げないと。
「失礼します」
汗がにじんだその額にそっと手をかざし、弱り切ったお身体に負担にならない程度の量から少しずつ魔力を流し込んでいく。
最初から重い食べ物を病人に与えると胃に負担がかかるのと同じで、魔力も弱った身体に与える際は細心の注意を払わねば危険になることもある。
淡い光に包まれた殿下の呼吸が少しずつ落ち着きを取り戻していく。
それに合わせて、私の魔力も少しずつ流す量を増やす。
浸透させて、送り込んで、また浸透させて。
それを何度も繰り返していくと、次第に殿下の顔色も良くなり、苦し気にしていたのが落ち着いた眠りへと変わっていった。
「これで大丈夫です。じきに目を覚まされるでしょう。それまでゆっくりと眠らせて差し上げてください」
「すごい……。顔色が見違えるようだ……!!」
「あぁ……クリストフ……!! よかった……!!」
眠る王太子殿下に縋り付く王妃様は、こう見ると普通の母親なのだと感じる。
いいな……。
ふと、羨ましい、と感じてしまった。
心配してくれる家族がいるというのは、身分なんて関係なく、誰にでもある幸せというものなのだろう。
「目を覚まされたら、しっかり水分を取らせて差し上げてください。あと、食事はなるべく重湯から流動食を経て、固形のものへと変えてください。全く食べなかった殿下の身体に最初から普段の料理を食べさせてしまえば、胃に負担がかかってしまいますから」
私のアドバイスを、宰相様が一言一句逃すまいとすごい速さでメモを取っていく。
さすが我が国の有能な宰相様だ。
「それと少しずつ、適度な運動を日の光の下ですることをお勧めします」
気も身体も弱い殿下は、庭でも必ず日傘を持っている、とお姉様に聞いたことがある。
そしてあまり遠くまで歩くことなく、いつも庭のガゼボでお茶会をするのだとか。
「身体がお弱いからと、刺激を取り除くだけでは、身体はその環境に慣れてしまいます。少しずつ、身体を動かすことに慣れさせることで、健康的なお身体になっていくと思います」
アレルゲンを取り除くだけでは逆効果であるのと同じ。
毒に慣れさせる、ではないけれど、身体を鍛えることを少しはしていかなければ、いつまでも虚弱体質のままになってしまう。
「ありがとうセシリア嬢……!! 適切なアドバイスまで……。何と礼を言ったらいいか……!!」
「お礼なんて……。ただ陛下、先程の約束は──」
「あぁ、わかっておる。すぐに手続きをしよう。私も命は惜しいし、何よりそれだけの対価に見合った、いや、それ以上のことをしてくれたのだ。応えねばそれこそ王家の恥というもの」
良かった……、国王陛下がまともな方で。
「それにしてもこの地から、やはりそなたが聖女……ということか……。だがなぜ測定石はローゼリア嬢に反応を……」
不思議そうに首をかしげる陛下に、私は黙って口をつぐむしかない。
だってそれを言えば、お姉様に力がないとわかってしまうもの。
いや、なんとなく気づき始めているのかもしれない。
だってお姉様は……一度だってまだ魔法を使ったことがないのだから。
「セシリア嬢、もしよければ、これが目覚めるのを待ち、改めて聖女の認定を──」
「その必要はありません」
陛下の不穏な発言をバッサリと切り捨てた、低く通る耳に馴染む声。
「オズ様……!!」
扉の方へ視線を移すと、鬼の形相でオズ様が腕を組んで立っていた。
「オズか」
「陛下。ご無礼、お許しください。彼女は無事お役目を終えましたでしょうか?」
淡々とした口調が妙に怖い……!!
「あぁ。クリストフを治してくれたばかりでなく、助言までしてくれた。本当に、彼女には感謝しているよ」
「そうですか。では彼女は俺が連れて帰ります。失礼」
「へ!? ちょ、ちょっ──!?」
オズ様は言うだけ言って、展開についていけていない私の手を取ると、足早に殿下の部屋を後にした。
荒い呼吸の中に混ざるごぽごぽという雑音。
肺が炎症しているんだわ……。
早く楽にして差し上げないと。
「失礼します」
汗がにじんだその額にそっと手をかざし、弱り切ったお身体に負担にならない程度の量から少しずつ魔力を流し込んでいく。
最初から重い食べ物を病人に与えると胃に負担がかかるのと同じで、魔力も弱った身体に与える際は細心の注意を払わねば危険になることもある。
淡い光に包まれた殿下の呼吸が少しずつ落ち着きを取り戻していく。
それに合わせて、私の魔力も少しずつ流す量を増やす。
浸透させて、送り込んで、また浸透させて。
それを何度も繰り返していくと、次第に殿下の顔色も良くなり、苦し気にしていたのが落ち着いた眠りへと変わっていった。
「これで大丈夫です。じきに目を覚まされるでしょう。それまでゆっくりと眠らせて差し上げてください」
「すごい……。顔色が見違えるようだ……!!」
「あぁ……クリストフ……!! よかった……!!」
眠る王太子殿下に縋り付く王妃様は、こう見ると普通の母親なのだと感じる。
いいな……。
ふと、羨ましい、と感じてしまった。
心配してくれる家族がいるというのは、身分なんて関係なく、誰にでもある幸せというものなのだろう。
「目を覚まされたら、しっかり水分を取らせて差し上げてください。あと、食事はなるべく重湯から流動食を経て、固形のものへと変えてください。全く食べなかった殿下の身体に最初から普段の料理を食べさせてしまえば、胃に負担がかかってしまいますから」
私のアドバイスを、宰相様が一言一句逃すまいとすごい速さでメモを取っていく。
さすが我が国の有能な宰相様だ。
「それと少しずつ、適度な運動を日の光の下ですることをお勧めします」
気も身体も弱い殿下は、庭でも必ず日傘を持っている、とお姉様に聞いたことがある。
そしてあまり遠くまで歩くことなく、いつも庭のガゼボでお茶会をするのだとか。
「身体がお弱いからと、刺激を取り除くだけでは、身体はその環境に慣れてしまいます。少しずつ、身体を動かすことに慣れさせることで、健康的なお身体になっていくと思います」
アレルゲンを取り除くだけでは逆効果であるのと同じ。
毒に慣れさせる、ではないけれど、身体を鍛えることを少しはしていかなければ、いつまでも虚弱体質のままになってしまう。
「ありがとうセシリア嬢……!! 適切なアドバイスまで……。何と礼を言ったらいいか……!!」
「お礼なんて……。ただ陛下、先程の約束は──」
「あぁ、わかっておる。すぐに手続きをしよう。私も命は惜しいし、何よりそれだけの対価に見合った、いや、それ以上のことをしてくれたのだ。応えねばそれこそ王家の恥というもの」
良かった……、国王陛下がまともな方で。
「それにしてもこの地から、やはりそなたが聖女……ということか……。だがなぜ測定石はローゼリア嬢に反応を……」
不思議そうに首をかしげる陛下に、私は黙って口をつぐむしかない。
だってそれを言えば、お姉様に力がないとわかってしまうもの。
いや、なんとなく気づき始めているのかもしれない。
だってお姉様は……一度だってまだ魔法を使ったことがないのだから。
「セシリア嬢、もしよければ、これが目覚めるのを待ち、改めて聖女の認定を──」
「その必要はありません」
陛下の不穏な発言をバッサリと切り捨てた、低く通る耳に馴染む声。
「オズ様……!!」
扉の方へ視線を移すと、鬼の形相でオズ様が腕を組んで立っていた。
「オズか」
「陛下。ご無礼、お許しください。彼女は無事お役目を終えましたでしょうか?」
淡々とした口調が妙に怖い……!!
「あぁ。クリストフを治してくれたばかりでなく、助言までしてくれた。本当に、彼女には感謝しているよ」
「そうですか。では彼女は俺が連れて帰ります。失礼」
「へ!? ちょ、ちょっ──!?」
オズ様は言うだけ言って、展開についていけていない私の手を取ると、足早に殿下の部屋を後にした。