来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜
「オズ様?」
「……」

 長い廊下を私の手を取ったまま無言で進んでいくオズ様。
 すれ違う人が皆オズ様の顔を見て言葉を失くし、一歩後ずさるのだから、相当凶悪な顔をしているのだろう。
 と、とにかく、落ち着かないと!!

「オズ様!!」

 大きな声で彼の名を呼ぶと、ようやく私の声に反応したオズ様が城を出てすぐのところで足を止めた。

 そしてそれと同時に、掴まれていた手を無言でぐっと引き寄せられ、私はオズ様の腕の中へとすっぽり収まってしまった。

「お、オズ様!?」
「無事でよかった」

 ぽつりと耳元で囁くようにつぶやかれた一言に、全身が震える。

「君が、もう帰ってこないような気がして……。あいつの──クリストフのそばに居続ける君を想像すると、じっとしてはいられなかった」
「オズ様……」

 帰って来たいとは思っていた。
 その保証はどこにもなくて、私自身も不安だった。
 そしてもう帰ることができないかもしれないという覚悟もしていた。
 でも──ずっと、本当はずっと、オズ様のところに帰りたかった……!!

「君の考えも聞かず連れてきてしまってすまない。もし君がこのまま城に残ってクリストフの傍にいたいというなら──」
「嫌です!!」

 離れかけた硬い胸板にとっさにしがみついた私を、大きく見開いて見下ろす赤い双眸。

「私は……、私は、オズ様のところが良いです……!! 男爵家も、殿下も、私には必要ありません。私に必要なのは、私がそばにいたいのは、オズ様なんです……!!」

 思いが溢れる。
 嫌われたくない。
 離れてほしくない。
 オズ様にだけは。

「っ……あぁ、これからもずっと一緒にいればいい」
 そう言って優しく撫でてくれたオズ様の手に、ふっと力が抜けていく。
 この手は、魔法の手だ。
 いつも私に安心をくれる。
 ぬくもりをくれる。
 私の大好きな、悪い魔法使いの手だ。

「ごほんっ。ちょーっとぉー? まだ家じゃないんだから、もうちょっと自重しなさいよーあんたたち!!」
「!?」
「!! カンタロウ!?」

 じとっとした目で見上げるカンタロウに、私たちはあらためて周りにたくさんの人がいてこちらを見ていることに気づいて互いに顔を染める。

「なんでここに……」
「トレンシスの見回りしてたら真剣な表情のセシリアがドルトん家に入っていくんだもの。そしたらセシリアと宰相が連れ立って馬車に乗って行くじゃない? やばそうだったら攫って帰ろうと思ってずっとつけてたのよ」

 ずっと心配でついてきてくれてた、ってこと?
 いつもつんつんしているカンタロウの優しさに、胸がきゅっとなる。

「はぁ……それはそうとオズ。あんた一人乗りの馬で来てセシリアどうする気だったの?」
「あ……」

 あぁ、オズ様が固まってしまわれた──!!
 あのオズ様がそこまで気を回せずにいたなんて、そんなに急いできてくれたのね……。
 そう思うと、またどうしようもなく頬が緩んでしまう。

「まったく……。仕方ないわねぇ。──よっ、と!!」

 ボンッ!!
 という音とともに真っ白な煙が上がる。
 そして煙が引いて目の前に現れたのは、大きな──鳥。

 あめ色の艶やかな羽。
 大きなくちばし。
 これって──。

「グリフォン!?」
 絵本の中で見たグリフォンの絵と同じ。

「カンタロウ、本当にグリフォンだったんだ……」

「だから最初から言ってるでしょ!? ったく……。乗りなさい二人とも。トレンシスまで乗せて飛んであげる。あぁ、繋げてあった馬は私が逃がしておいたから。今頃ちゃんと自分でトレンシスに帰ってるはずよ」

「あぁ、ありがとう。セシリア、手を」
 差し出された大きな手に自分の右手を重ねると、ぐいっと手を引かれ、そのまま抱き上げられる私の身体。

 そしてオズ様はそのまま、カンタロウの背へと飛び乗った──。

「オズ、しっかりセシリアを抱きしめてなさいよ!!」
「……言われなくても」

 低く耳元でつぶやいて私の身体を抱きしめる力が強くなると、大きく高鳴る私の鼓動。

「いっくわよー!!」

 私はオズ様に抱きかかえられたまま、カンタロウの背に乗せられトレンシスへと飛び立った──。






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