来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜
 だめだ。
 なんだかモヤモヤして料理どころじゃない。

 オズ様にとって私は、婚約者、よね?
「愛してる」って言ってくれたのは、まさか夢だったのかしら?
 も、もしかして私、長い夢を見てた?
 そもそもいつからいつまでが夢!?

 そっと右の手で自身の唇に触れる。
 あのキスも……もしかして私の夢、妄想だった?

 あれから一度もそんな雰囲気にはなったことはないし、その可能性が高いような気がしてきた。

「はぁ‥…」

 ジュゥ~~~~~……。
 ため息をついた瞬間、どこからともなくざらついた音が耳に入ってくる。

 ん? ジュゥ~~~~?

「!! しまった!! っ、熱っ!!」

 すぐに火を止めてフライパンの蓋を取ると、閉じ込められていたアツアツの蒸気がもわりと解放される。
「あー……」
 お肉、焼きすぎちゃった……。
 フライパンの上には見事に黒く焦げた肉の塊。

 と同時に、背後からもなにやら焦げ付いたようなにおい──。

「あぁぁあああっ!! き、キコの実のパンがぁ……」

 窯の中で焼いていたパンがカチコチの黒焦げ状態に……。

「こ、今夜の食事がぁ……」
 無事なのはサラダとコーンのスープだけ。

 料理を失敗してしまうだなんて……。
 私の唯一の取り柄なのに。
 そもそもご飯を作るためにここでご厄介になっていたというのに。

「私の意味が……ないじゃない……」

 ポタリ、ポタリ。
 調理台の上に零れ落ちる雫。

「っ……ダメだ。メインをどうするか。ちゃんと考えないと。だって私は、そのためにいるんだから……!!」

 私はごしごしと袖で涙をぬぐい取ると、戸棚にある食材に手をかけた。

 ***

「珍しいわね、リゾットだなんて」
「うんうん。リゾットとスープの組み合わせなんて斬新でいいと思うよ」

「は、はは……」

 屋敷にあるものでとりあえず作ったのは、他国から取り寄せた穀物を煮て、ミルクとチーズ、調味料で味付けをしたチーズリゾット。
 前世でよく作っていたのを思い出して作ったのだ。
 そしてすでに作り終えていたコーンのスープとサラダ。

 ドロドロ×ドロドロという奇跡のコラボレーション。
 ……はい、チョイスミスです。

「キコの実でパンを作ると言っていたんじゃなかったか?」
「それが……私がぼーっとしていたから焦がしてしまいまして……。お肉ともども……」

 ごめんなさい、と頭を下げる私に、オズ様は「気にするな」と言ってリゾットを一口口に含んだ。


「今日は様子もおかしかったし、疲れていたんだろう? 気にすることはない。それに、チーズリゾットもとてもおいしい」
「オズ様……」

 相変わらず作ったものに対してきちんとおいしいと伝えてくれるオズ様。
 でも……。
 疲れていたんじゃない。
 気づいて。
 心の中でもう一人の私が叫ぶ。

 いつから私は、こんなにも欲張りになってしまったんだろう?
 欲張りで、わがままで……。

 知らない自分がどこか恐ろしく、汚らしく思えて、私は持っていたスプーンをそっと伏せた。

「すみませんオズ様。私、オズ様がおっしゃっているように疲れているのかもしれません。先に部屋に戻らせていただきますね。お皿は、寝る前にでも洗っておきますから、そのまま置いておいてください」

「お、おい、セシリア!?」
 驚く声に振り替えることなく、私は足早に広間を後にした。



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