恋とか、愛とか




珍しく、あまり人とすれ違うことなく、赤信号で立ち止まることも少なく家路についた。


「ただいま」


『おかえり』


「!!」


ハッと顔を上げても、そこには誰もいない。
空耳。


「・・・はぁ」


ため息を一つついてから、静かな家の中に入る。自分の部屋に行って荷物を置いて制服を脱ぐ。
掛けていたメガネを外してテーブルの上に。
クローゼットの中から適当に服を見繕って着替える。化粧もして準備が終わった頃にスマホの画面が明るくなる。
横目で見てメッセージを確認する。
絵文字も顔文字もないメッセージだけ。
飾らないメッセージは送り主と一緒だ。
パパッと返信して、私は鞄を持って家を出た。
行き先は、10分くらい歩いた先にある駅だ。
学校から帰ってきた時より少し陽が落ちている。秋口に入ったばかりなのでまだまだ暑さは残っている。陽が沈むのは早くなったから夏はもうすぐ終わり。
今年の夏も暑かった。
早く冬になってほしい。
じんわりと汗が出る。
駅に着いて改札をICで通り抜けて地下鉄に乗る。
人が少なかったので余裕で椅子に座ることができた。


5駅先の所で降りる。
私が住んでいる場所より賑わいのある街。
仕事帰りのサラリーマンや大学生、今から出勤するだろう夜の仕事をしている人。たくさんの人が行き交っている。
駅を出て周りをぐるりと見渡す。
目的の人の姿が見えないのでスマホを出してメッセージを送る。
すぐに返信が来た。


『今、改札出た』

「外にいるね」


分かりやすいように入り口の所に立って待つ。
ぼんやりと行き交っている人の姿を見る。
疲れ果てた表情の人や楽しそうに友人と話している人、幸せそうなカップルなどなど私の視線の先にはたくさんの人が見えていて、どの人にもその人の人生のレールがあって進んでいる。
私も私の人生のレールに乗って進んでいるんだけれど・・・一体私ってなんなんだろうと思う。
私の周りには暖かい両親の温もりなんてない。友だちも作ろうと思ったことがないから最低限の関わりしか持ったことはない。勉強は割と出来る方ではあったから進学には困らないかもしれないけど、何になりたいかなんて決まってないし。


「そう思うと、私って空っぽだな・・・」


「何が?」


声をかけられて声の方を見ると、スーツ姿の爽やかイケメンが立っていた。


「翔也」

「遅くなってごめんな」

「私も今来たから大丈夫」


急ぎ足で来てくれたのかな少しだけ息が上がっているように見える。
急がなくてよかったのに。


「お仕事、お疲れ様」

「ゆゆも学校お疲れ」


するりと翔也の腕に抱きついて身を寄せる。
スーツから伝わってくる温もりにホッとした。


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