すきとおるし

 わたしたちは三年前、インターネット上で知り合った。

 ゆん、花織、きんぎょ、ジョン・スミス、そしてイチ。
 全員がそれぞれハンドルネームを呼び合い、本名も顔も知らない。年齢も職業も住んでいる場所もまるで違う。

 ただゆんが趣味で行っていた、視聴者なんてほとんどいないゲームの生配信で偶然集まり、一緒にオンラインゲームをしたり、ボイスチャットで雑談をしたりして仲良くなった、普通に暮らしていたら絶対に知り合わなかったであろう人たちだ。

 ゆんは同い年の男性で、一番気が合った。同世代だからというわけでもないどんな話をしても盛り上がったし、同時によく口論もした。

 花織はいつもそれを止める役で、同い年の優しい男性だった。名前と、ゲーム上で可憐な妖精のようなアバターを使っていたから、てっきり女性だと思っていた。だからボイスチャットからテノールの声が聞こえてきたときは驚いた。

 きんぎょは五人の中で最年少の女の子だったけれど、一番の毒舌家でもあった。どんなことでもはっきり言ってくれる、気持ちの良い子だ。わたしたち同級生三人衆は毒を吐かれつつも、彼女を妹のように可愛がった。

 ジョン・スミスは、可愛らしい声とのんびりした口調の女の子だった。オンラインゲームを始めるときに名前を付けなくてはならず、でも何も思いつかなかったので、ぱっと思いついた名前にしたそうだ。こだわりもないと言うから、スミスの「ス」を取って「スーちゃん」と呼ぶことにした。

 そしてわたしが、イチ。名字から取っただけの簡単なハンドルネームだったけれど、毎日呼ばれる度に馴染み、私生活でも誰かがどこかで数字の「一」を口にすると、思わず返事をしそうになる。

 わたしたちは毎晩、誰が言い出すでもなく集まり、ゲームや雑談をし、心から笑って過ごしていたから、年齢や住んでいる場所なんて関係ない、と。本名を知らなくてもいい、と。思っていた。

 ずっとこの日々が続くとも思っていたし、そう願ってもいた、けれど……。

 多くの時間を共有してきたせいで、親しさは徐々に形を変え、いつしか、ただ話すだけでは満足できなくなってしまったのだ。

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