『46億年の記憶』  ~新編集版~
プロローグ
        プロローグ 

『らんし』って、知ってる?
 乱視じゃないわよ、卵子。
 それが〈わたし〉なの。
 
 今ね、千倍の競争を勝ち抜いて排卵されたところなの。
 凄いでしょう。
 わたしは選び抜かれた特待生なの。
 それにね、とても貴重な存在なの。
 女性が生まれた時には100万個から200万個の卵母細胞(らんぼさいぼう)を持っているのだけど、一生に排卵する卵子は400個から500個しかないの。
 つまりね、0.04パーセントから0.025パーセントの確率で生き残った特別に貴重な存在なの。
 わかってくれた? 
 
 あっ、頷いてくれたわね。
 ありがとう。
 わたしってね、目に見える存在ではないからちゃんと知っている人って意外に少ないのよ。
 女の子は保健体育の時間に教わるんだけど、まともに理解している子って意外に少ないのよね。
 自分の体のことなのに真剣に聞いていないのよ。
 女の子でもその程度だから、男の子に至っては推して知るべしよね。
 でもね、これはとても大事なことなの。
 卵子のことをちゃんと理解していないと〈望まない妊娠〉に繋がってしまうの。
 そんなことになったら大変でしょ。
 だからちゃんと理解してね。
 それが女の子の体と心を守ることだからね。
 避妊もせずにセックスするなんて馬鹿なことはしちゃダメよ。
 パパ活というのが流行っているらしいけど、お金のためだけにおじさんとセックスしちゃダメよ。
 「中出しさせてくれたらお小遣い弾むから」なんて言われて頷いたりしたらダメよ。
 あとで泣きを見るのがわかっているんだからね。
 ちょっと説教じみちゃったけど、老婆心ながら忠告させてもらったの。
 
 何? 老婆心は変だろうって? 
 …………、
 そうか、その通りね。
 わたしは排卵されたばかりで赤ん坊にもなっていないんだから老婆心ってことはないわよね。
 卵子心と言い換えさせてもらうわ。
 それでいいかしら。

< 1 / 207 >

この作品をシェア

pagetop