『46億年の記憶』  ~新編集版~
「あなたに出会うために僕は生まれてきました。体の大きさは50ミクロンです。0.05ミリメートルと言い直した方がわかりやすいですか? 僕の体は頭部(とうぶ)頸部(けいぶ)尾部(びぶ)で出来ています。尾部は鞭毛(べんもう)とも呼ばれています。精巣で作られた僕は精管内で待機し、無数の仲間と共に外へ出るチャンスを待っていました。そして遂にその時がやって来たのです。僕たちは一斉に陰茎から膣内へと放出されました。そして〈あなた〉というたった一人の姫君に出会う旅が始まったのです」

 あらっ、標準語になっているわ。
 
「んん。僕はバイリンガルですから、関西弁も標準語もどちらもしゃべれます」

 それって、意味が違うように思うけど……。
 まっ、いいか、続けて。
 
「僕が置かれた競争環境は熾烈なものでした。普通ではありえない競争環境だったのです。その競争倍率を聞いたらびっくりしますよ」

 百倍? 
 千倍?
 
「いえいえ、そんな生易しいものではありません。億倍なのです」

 億倍? 
 何それ? 
 わたしは卒倒しそうになった。

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