『46億年の記憶』  ~新編集版~
「1回に射精される精子の数は1億個から3億個なのです。1CC中に直すと5千万個。それが一斉にあなたに向かっていったのです」

 凄い! 
 わたしのために。
 かなり感動しちゃった。
 
「でも戦いは精子同士だけではありません。女性の体に備わった防御機能にも勝たないといけないのです。最大の敵は白血球なのですが、それ以外にも幾多の困難が待ち構えているのです」

 そうなんだ~、
 で、どんな困難?
 
「膣内のペーハーが最初の難敵です。膣は通常酸性に保たれており、酸に弱い僕たちがその中で生きられるのは30分が限度なのです」

 それってヤバくない? 
 いきなり大変じゃないの。
 
「そうなんです。ただ排卵期間中だけは粘液がアルカリ性のサラサラ状態になっているので、その時期に射精してくれればなんとか通り抜けることができるのです」

 良かった……、
 
「しかし、ホッとする間もなく次の難関が待ち構えていました」

 今度は何?
 
「膣を無事に通り抜けたとしても、子宮頚管という更なる難敵が待ち構えているのです。そこはとても細くて狭いトンネルなのでそれだけで大変なのですが、その中を、それも頸管粘液という液体の中を泳がなければならないのです。精子たちは押し合いへし合い我先にと急ぐのですが、その頸管粘液が少なかったせいで泳ぐのが大変だったのです。ここで疲れ果てて脱落した同志も数多くいました」

 排卵後のわたしには競争相手がいないけど、精子は大変なのね。
 
「そうなんです。でも、大変なことはまだまだ続きます。子宮頚管を通り抜けたからといって、一気に、という訳にはいきません」

 えっ、
 まだ何かあるの?

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