『46億年の記憶』 ~命、それは奇跡の旅路~   【新編集版】
『東京都の休業要請、今日から全面解除』

 接待を伴う飲食店やライブハウスなどの営業が再開できるようになったとアナウンサーが伝えていた。
 
「危ないな~」

 警鐘を鳴らすような声が新の口から漏れた。
 前日の東京都の感染者は41人で、そのうち10人が接待を伴う飲食店の従業員や客だった。
 
「アメリカやブラジルのようにならなければいいけど……」

 考子の不安は大きくなっていた。

「経済活動の再開を急ぐと同じことになりかねないね。もちろん、ギリギリのところで持ちこたえているお店も多いらしいし、解雇に怯えている人たちも少なからずいるらしいから放っておくわけにはいかないけど、再開を急ぎ過ぎると危ないね」

 新は力なく首を横に振ったあと、もう一つの危惧を口にした。

「感染防止のためにはマスク着用が必要だけど、これからどんどん暑くなっていく中でマスク着用を続けると熱中症も心配だね。体の中に熱がこもって倒れる人が増えるかもしれないし」

 新型コロナ感染と熱中症のダブルパンチが襲ってくる光景を思い浮かべた考子はぞっとしてブルっと体を震わせたが、その時、ある事に気がついた。

「ねえ、インフルエンザが夏に流行することはないわよね。ということは、新型コロナも夏になったら収束するんじゃない?」

 新が頷いてくれることを期待してじっと見つめた考子だったが、期待通りの反応は返ってこなかった。

「そうとも言えないな。感染が拡大しているアメリカの南部は日本の夏の気温になっているけど、収束どころか急増している状態だからね」

「そうか~」

 期待がしぼんだ考子にそれ以上口にする言葉はなかった。

「とにかく、有効なワクチンが出てくるまでは気を緩めないで、しっかり感染予防対策をするしかないと思うよ」

「そうね……」

 いつまでその状態が続くのか先が見えない中で考子の気持ちはどんどん沈んでいった。
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