『46億年の記憶』 ~命、それは奇跡の旅路~   【新編集版】
        わたし 

 パパが板挟みになっているみたい。
 かわいそうだけど、なんともしてあげられないわね。
 でも、みんなが祝ってくれるのはとても嬉しいから、パパ、うまく調整してね。
 
 ところでね、体が更に大きくなって、細胞が3兆個を超えたのよ。
 凄いでしょう。
 とはいっても、大人の細胞は60兆個だから、まだ二〇分の一なんだけどね。
 でも、人間の基本形はほぼ出来上がって、いつ生まれてもいい状態になったから、わたしの出産準備はほぼ完了よ。
 ただね、ママのお腹の中で動くのは難しくなったの。
 子宮の中はほとんど余裕が無いから、じっとしているしかないのよ。
 だから、動く代わりに頭の中でシミュレーションしているの。
 生まれる時は何回も体を回さなくてはいけないから、それを頭に叩き込んでいるの。
 だって、失敗したら大変だからね。
 
 では、シミュレーションをもう1回するわね。
 骨盤に入る前の屈曲(くっきょく)姿勢はこう、
 骨盤を通過する時の姿勢はこう、
 産道を抜ける時の姿勢はこう、
 頭が出たあとの回旋はこう。
 
 よし、大丈夫。
 
 でも念には念を入れなくっちゃね。
 ではもう1回、と思ったら眠たくなっちゃった。
 集中すると疲れるのよね。
 ちょっとお昼寝するわね。
 おやすみなさい。


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