『46億年の記憶』 ~命、それは奇跡の旅路~   【新編集版】
        わたし 

 ねえ、ねえ、聞いてくれる? 
 体が50センチを超えたのよ。
 大きくなったでしょう。
 体重は3,000グラム近くあるのよ。
 丸々として健康そのものよ。
 元気いっぱいだし、お腹の中は気持ちがいいからもっとここに居たいんだけど、そうもしていられないようなの。
 40週間過ごしたこの子宮にもお別れの時が来たらしいの。
 外の世界に向けての旅が始まるのよ。
 
 でも、それは簡単なものではないの。
 外へ出るためには子宮口を開かなくてはいけないから、自分の頭でぐりぐりしてこじ開けなければならないの。
 直径5ミリしかない子宮口を10センチにまで広げなくてはいけないから大変な作業なのよ。
 頑張っても1時間で1センチの割合でしか広げることができないから、多分10時間くらいはかかると思うの。
 これから必死になって10時間頑張るのよ。
 そう思うとちょっと、緊張してきちゃった。
 心臓がドキドキしている。
 武者震いもしてきたわ。
 ちょっと落ち着かないとだめね。
 最後の大勝負なんだから、気が()いていてはうまくいくものもいかなくなるからね。
 
 でも、どうしたらいいかしら? 
 
 そうね~、
 そうだ、深呼吸がいいかもしれない。
 それがいいわ。
 思い立ったら吉日って言うから、すぐに始めるわよ。
 大きく吸って~、
 吐いて~、
 吸って~、
 吐いて~、
 吸って~、
 吐いて~、
 よし、大丈夫。
 準備万端よ。
 さあ、行くわよ。


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