『46億年の記憶』  ~新編集版~
 検査が始まった。
 プローブの先端が触れると、ひんやりと感じた。
 中に入ってきた。
 違和感があったが痛みはなかった。
 首を傾けて画面を見ると、何かが映っていた。
 とても小さな何かが。
 
「おめでとうございます。赤ちゃん元気ですよ。ほら心臓が動いているでしょう」

 医師の説明を受けて目を凝らせた。
 子宮の中に小さなものが映り、その中の小さな点のようなものが動いているようだった。
 しかし、感動で目が潤み、次第にその姿がぼやけてきた。考子は目を瞑った。
 
 あぁ~、私の赤ちゃん。
 私の中で芽生えた命。かけがえのない宝物。
 
 感動の波が幾度も押し寄せてきて、異次元の世界へ誘われた。
 今までの人生とまったく違う景色が見えていた。
 
 命を授かるとはこういうことなのだ。
 もう自分一人の体ではないのだ。
 子宮というゆりかごで赤ちゃんを大切に育てるという素晴らしい役割が与えられたのだ。
 それはつまり人生が180度変わるということなのだ。
 考子はしみじみとそう思った。
 
 しかし、感動に浸る時間は長くなかった。
 検査はほんの数分で終わったのだ。
 現実に戻った考子は下着を身につけ、内診台を降りた。
 
「記念にお持ちください」

 赤ちゃんが写ったエコーの写真を手渡された。
 その写真を見る考子の目にはもう涙はなかった。
 母性に満ちた明るい火が灯っていた。

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