星の数ほどいる中で【完】
土曜日、昼下がり。庭園のすみっこ。
あっという間に、私は病院へ行くことが当たり前になった。
一階の庭園や、屋上の庭園で海さんとお話をする。
そんなとある日のこと、海さんが穏やかな眼差しで言った。
「天ちゃんがフェンスを飛び越えてきてくれたとき、翼があるように見えたんだ」
それは言い過ぎです、と思いつつも海さんが真面目に言うから、返事をちょっと考えた。
「海さんって詩的ですよね」
「中二って言ってくれていいよ」
海さんの方が、ははっと笑い飛ばすように言った。
でも、今の言葉は笑い飛ばすものじゃない。私にとっては。
「言いませんよ。そうだ、それなら私が海さんをどこへでも連れていきますよ!」
「え――」
「翼があるなら、どこへでも行けるでしょう? だから、自棄にならなくて大丈夫ですよ」
「……僕が一人で立とうとしたこと?」
海さんはリハビリを頑張っている途中で、まだ一人で歩くことはできていないらしい。
「自棄になる気持ちもわかります。私も彼氏できなさ過ぎて自棄になったことあります」
「彼氏……いないんだ?」
「友達はみんな彼氏いるんで、私だけぼっちなんですよね。でもまあ、私はその場しのぎの彼氏じゃなくて、生涯ずっと一緒にいる人とお付き合いしたいんで、早く出逢うだけがすべてじゃないと思ってます」
「そんなんで私まだまだヒマなんで、どこへでもお連れしますよ。運転免許とかマッハで取りますね!」
「交通法違反にならないようにね。でも……そうだね。そんな風に未来を思えたら、気がラクになってきたかも」
「それはよかったです」
さっきよりももっと穏やかな顔の海さん。私も嬉しいです。