After school At home
その日の夕飯は、はーちゃんを交えてわたしと父、母、兄の五人で焼肉を食べに行った。
その間、彼はずっと肉を焼いたりお皿を片付けたりとてもしっかり者だってことが全員に伝わる振る舞いをしていた。
「はーちゃん、根津高だったんだね」
「うん。つーちゃんと同じ時にいられなくて残念だったけど、こうやって一緒に通える日がくるなんてうれしいよ」
そう言って、彼がこちらをみつめてきて、思わずドキッとしてしまった。
「あ、そ、そうだ! 仮にも先生と生徒なんだから〝つーちゃん〟はダメだよ。わたしも〝竹内くん〟って呼ぶから」
「なによこの子ってば。イトコなんだからいいじゃない。それにつばさが先生なのはたった2週間の話でしょ?」
肉をつつきながら、お母さんが呆れたように言う。
「だってわたし、器用じゃないから学校でも「はーちゃん」って言っちゃいそうなんだもん。変に思われたら困るの」
教師になるのがずっと夢だったから、こんなことでトラブルを起こしたくない。
「あらーケチねー」
「おばちゃん、僕は大丈夫です。大事なイトコを困らせたくはないから、家でも垣崎先生って呼ぶようにします」
竹内くんがまたニッコリと優しく微笑んでくれてホッと胸を撫で下ろす。
「それにしても隼人、本当にイケメンになったな」
今度は兄の翔太郎(しょうたろう)が竹内くんをほめ始めた。うちの家族はイケメンに弱いらしい。
「翔くんの方がイケメンだよ」
「まあなー」
お兄ちゃんは少し酔っているようだ。
「つばさ、教育実習が終わったら隼人に彼氏になってもらえよ」
兄のストレートすぎる発言に、飲んでいたウーロン茶を吹き出しそうになって「ゴホゴホと」むせた。
「お前イケメン好きじゃん。それにあのチャラい彼氏と別れたんだろ?」
「ちょっと! お兄ちゃん!」
「チャラい彼氏?」
心なしか、竹内くんの声が低くなった気がする。
「そうなんだよ。こいつ、顔で選んでるからチャラいやつとか浮気癖のあるやつとか、悪い男にばっかり引っかかってさー」
「ちょっと! 本当にやめてよ! お兄ちゃんの彼女だって似たようなもんじゃない!」
「なんだよ」
「あんたたち! やめなさい!」
お母さんが「ドンっ」とジョッキをテーブルに叩きつけるように置いて、ドスの効いた声を響かせた。いい歳をしたわたしたちはしゅんと黙り込んだ。
「悪い男………」
「竹内くん?」
小さな声でつぶやいたのが聞こえた気がしたけど、話はそこで終わった。

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