君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する
「よぉライ。連れは寝ちまったのか?」
「誰だっけ?」
「さっき会ったろ!?ケンゴだ」
「あぁ、そういえば会った気もするな。で、何で居んの?」
「俺もたまたま、この旅館だったんだよ」

ケンゴは1人分の距離を取り、ライの横に座り、そこそこ度数高めの梅酒を店主に注文する。
届けられた梅酒を、ケンゴは少しだけ口に含む。

「・・・ライ」
「ん?」
「正直、冗談抜きに驚いた」
「何が?」
「“氷”の名称を貰うぐらい冷徹だったお前の風状が、随分和らいで様変わりしてたのも勿論だが、何より、その娘を連れてた事にだよ。一緒に行動を共にしてるのか?」
「あぁ、懐かれて仕方なくな」
「常に一人行動を好む“氷”の剣士様ってあろうお方が、懐かれたぐらいで旅の同行者を許すなんて思えないけどね。お前の強さや見た目に惚れ込み、共に行動をしたいと志願してきた女達を、まぁ男も居るか、そういう奴らを今まで何人断ってきた?軽く女の相手はするが、ライの、ユキトって女への執着と一途さは、俺たち界隈では有名な話だ。その娘、本気なのか?」
「まさか、遊びだよ、単なる暇つぶし」
「テメェがいつも懐に大事に抱えてる、銀鎖まで渡しておいてか?」

ライは小さく苦笑を落とすと、眠るシオンの頭を優しく撫でる。

「コイツの容姿が余りにもユキトに類似してるからさ、少し擬似恋愛を楽しませて貰おうと思っただけさ。俺が生涯愛すると決めた女はユキト、ただ一人だけだ。それは、今もこれからも変わらない」

ライは、残りの豆が入った皿をケンゴの前に置く。
席から立つと、ライは眠っているシオンを、両腕で掬い上げる様に抱えた。

「店主、俺たちはこれで失礼するよ、ご馳走様」
「またおいでね」

二人分の勘定を済ませ、ライはシオンを抱え、店を離れた。

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