君とリスタート 剣士様は抱き枕を所望する
布団にシオンを寝かせ、その寝顔を眺める。
ユキトも酒に弱かったのかな。なんて、ライは思いを馳せる。
ライの恋人ユキトは、18の成人を迎えずに亡くなった。
火照るシオンの頬に、ライは触れる。
シオンから伝わる温もりに、ほっとする。
「らぁい?」
うっすら瞼をあげ、舌ったらずにライの名を呼ぶ。
「ライの手、冷たくて気持ちい」
「悪い、起こしたか?気分は?」
「だいじょうぶ、少しふわふわするだけ」
「水飲む?持ってこようか?」
シオンは小さく首を振る。
そして、ぼんやりする眼差しでライの瞳を見てくる。
まるで、何か探る様に。
銀鎖を渡した時もそうだったが、シオンはライの深意を尋ねる事はしない。
けれど言葉以上に、群青色の眼差しが、物言いたそうに寂しそうに揺れる。
「もしかして、さっきのケンゴとの会話、聞いてた?」
「・・・さっきのって?」
「何でもないよ、寝ようか」
「ぅん」
シオンの体温で温まっている布団に、ライも潜る。
普段は嫌々抱き枕になり、少しの抵抗を見せる癖に、今日は大人しく抱き枕の役割を果たしてくれている。
「んな無防備だと、本当にパクリ食われるぞ」
「ライなら、パクリされても嫌じゃないよ」
「・・・たく、早く寝ろ」
「ぅん」
何時もの様にシオンを強く抱き締め、その柔らかさと温もりにライは浸かる。
ーーーーその愛らしい顔で、余り煽ってくれるな。玩具に愛着が湧いたら、捨て難くなるだろうが。
*****
ライは早朝から、昨夜と同じ酒場に出掛けて行った。
店主が勧めてくれた酒を、出発前にもう一度呑んでおきたいとの事らしい。
時間を持て余し中のシオンは、適当に町を見て歩いていた。
不意に、道の先に立っていたケンゴに気付き、シオンは足を止めた。
「どうも、娘さん」
「ライのお友達の、ケンゴさんでしたっけ?」
「覚えてくれていて光栄ですね。でも俺はライの友達じゃないですよ、いわば好敵手です、相手にされてませんけどね。ライはどうしました?」
「朝から呑みに行ってますよ」
「そうでしたか、俺が昨日、邪魔しちゃったから呑み足りなかったんでしょうね」
昨日、ライと遭遇した時は血気盛んな様子のケンゴだったが、今日は少しの笑みを携えながら、落ち着いた雰囲気を醸し出している。