君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する

「ん、はぁっ・・・ら、い。息、させ・・・んっ」

毎夜の如く、ライ専用抱き枕の役目を果たし中のシオン。
ただ今日は、いつもと少し調子が異なる。
硬い無表情で、必要に唇に執着してくる。
角度を変えて押し当てたり、小さな音を奏でながら何でも啄んだり、ねっとりと強弱を付けながら舐めたり。

ーーーーもぉ、お風呂、入ったばかりなのに。

身体中に熱が回り、汗が滲む。
息苦しく鼓動は速い、脳も朧げになって蕩けて行く。
このままライの思う壺に発情させられては、身体を休めず、眠りに付けない。

ライは、自己中に人の身体を無造作に触れてくるが、シオンの体調を蔑ろにする事はない。
寧ろ気遣いながら、その時のシオンの調子で悪戯を配慮する、使い所が狂ってる優しさがある。

ーーーー私がクタクタなの、分かってる筈なのに〜。

熊親子や、今日、リュウに発動させた治癒術は、高度の技術と魔力量が必要とされる。
その分、肉体への負担も激しい。

シオンは、ライの唇と自分の唇の間に自分の手を割り込ませ、壁を作る。

「何、この手?」
「ライ、どうしたの?ご機嫌斜め?早く寝かせて欲しいんだけど、眠い」
「シオン」
「何?」
「俺の前で、他の野郎と戯れんな」

一瞬、ライがどの事を言っているのだろうと疑問符を浮かべるが、もしかして、と思い当たる。

「えっと、リュウに人工呼吸をした事?」
「・・・」
「ライ、可愛いね」

代用品でしかない自分にまで独占欲を垣間見せるなんてと、それが何ともいじらしく感じ、シオンはつい、笑みを溢してしまう。

ーーーーそうだよね、好きな女と同じ顔の女が、別の男と唇を合わせている場面なんて、面白い訳ないよね。本当に、ライにとってユキトは、今でも変わらず大切な人なのね。でも?なんだろ、少しだけ、胸が曇る感じがする。

「シオンから口付けしてくれたら、背中トントンしながら寝かし付けてあげるよ」
「何よそれ、赤ちゃんじゃないんだから」
「因みに口付けは五回な」
「よく覚えてるわね」

人工呼吸の為に、シオンがリュウに息を吹き込んだ回数。

一度、口に出した条件を撤回したりしないだろう、ライと言う男は。
早く寝かせて貰うには仕方ない。
そう割り切り、シオンは躊躇いながらも唇を寄せ、チュッと口付けを交わす。
普段、ライから強引にされるのと、自分からするのとでは、恥ずかしさの緊張感が全く異なる。
心臓の音が鼓膜まではっきりと聞こえ、顔中に熱が集まり、ふやけ出す。

「可愛いのはどっちだよ。ほら、あと四回な」
「やっぱり、しなきゃ、駄目?心臓、壊れそう」

もう勘弁して、とばかりに、シオンはライの着物に顔を埋め、表情を隠す。
ライはシオンを抱き締め、耳元で囁くーーーー「駄目」と。

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