君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する
「・・・なに、泣いてんだよ、俺なんかの言葉で」

ユキトと同じ顔の女を泣かせて傷つけて最悪の気分のライの元に、レモンとは違う別の赤い魔鳥がライの元へと降り立つ。
差し出される嘴には手紙が咥えられている。

「俺にか?」

手紙を受け取る。
差出人は、魔王。
それは魔王城への招待状だった。
どんな意図があっての招待なのか、ライには検討も付かない。
でもどの道、ライはその招待を受けるつもりはなかった。

招待状を魔鳥に突っ返し、ライは断りの意思を示す。
だが、魔鳥が突然ライの背後に回り服を足で掴む。

「おい、まさか」

魔鳥は、ライごと夜空へと舞い飛んだ。
悠々と運ばれながら、ライを溜息を落とす。

「これじゃ、招待じゃなくて拉致だろ」


*****


私の世界は、魔王様一色だった。
私に、居場所と名前をくれた方。
親愛と尊敬、自分の命よりも尊く大切な存在。
魔王様だけで良かった。
心を揺さぶられる存在は魔王様だけで、良かったのに。

レモンはシオンの高い所嫌いを知っている。
故にシオンが怖がらぬ様に、ゆっくりと夜空を飛行する。

「ガウ」

とある森の上を通りかかった時、シオンの耳に、聞き覚えのある声が届く。
そこは、ライと出会った迷宮の森。
レモンは慎重に滑空し、呼び声が掛かった方へと向かい、森へと。

シオンが降ろされた場所は、大きい熊親子の前。
再会できた事が嬉しいのか、子熊はシオンの周りを「ガウガウ」言いながら地響きを立て走り回っている。
そんな子熊に、鎮まれとばかりに、親熊が拳骨をドガンっと落とす。

「はは、元気そうね」
「ガウ?」

親熊は、心配そうにシオンの顔を覗き、流れ出ている涙を太い爪で拭う。

「・・・さっきから、止まってくれなくて」

ライに言われた拒絶の言葉。
嫌悪感をぶつけてくる視線。
ライの一喜一憂に、どうしてこんなにも悲しくて辛い気持ちになるのか、どうして涙が止まってくれないのか、シオン自身も、考えられる心の余裕が何処にもなかった。

今はただ、優しい親熊に縋らせて貰おうと、シオンは、栗色の毛並みに顔を埋め、声を上げ泣き続けた。


第八話「剣士様と魔族娘の仲違い」終

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