君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する
「俺の可愛い従者を泣かせてくれたようだね」
「・・・退けよ」
「さて、種明かしと行こうか。君が、心の声のまま忠実に、シオンを拒絶せず受け入れてさえくれていたなら、俺が出しゃ張る事もなく、二人の行く末を暖かく見守るだけのつもりで居たんだけどさ」

ヒカルは、ゆったりとライから手を離し降りる。
立てる?とばかりに差し出されたヒカルの手を払いのけ、ライはヒカルを睨み付けながら起き上がる。

「シオンを、泣かせるつもりは、なかった。それについては詫びる」
「詫びは俺じゃなく、シオンに直接言ってやってくれ」
「俺はもう、シオンに会うつもりはない」
「そんなに、ユキトがシオンに侵食されて行く様が怖いのかな?意外と臆病なんだね」
「・・・魔王様は何でもお見通しってか」
「新しい恋は、けして悪い事じゃないと思うけど」
「黙れよ」

低く唸る様にライが言う。
今度は、ライがヒカルの胸ぐらを掴む。

「ユキトが、どんな境地で死んでいったと思う。族に攫われ、何日も複数の男共に犯され恥辱され、しまいには腹を何箇所も刺され、冷たい川に投げ捨てられた」
「あぁ、らしいな」
「俺はその間、村から遠く離れた場所で浮かれ気分だったよ。村に戻ったらユキトに銀鎖を渡して、正式に夫婦になろうと告げるつもりでいた。でも、俺が村に戻った時にはもう、後の祭りさ。捕まった族は愉快げに、ユキトの顛末を狂った様に喋り散らかしてたよ」

平和な日常は、あの日、あっという間に奪われ壊された。
握っていたヒカルの胸ぐらを、ライは悔しげに離す。

「ライが、ユキトの死を悔やんでるのは分かってる。ならその悔しみを、繰り返す気か?」
「っ」
「シオンも、ユキトの様にならないとは限らない」
「・・・シオンは魔族だ。大抵の難事なら自分で解決する強さがある」
「ユキトだって弱くはなかったろ?それにシオンは、ただただ、正義感の強い、優しい女の子ってだけだ。そしてその正義感は、かなり危ういものでもある。そんなの、ライも本当は分かっているのだろ?」
「お強い魔王様が守ってやればいいだろっ!俺じゃなくてもいい!俺が永遠に愛すると誓った女はユキトだけなんだよ!!」

声を荒げるライ。
さっきからずっと、シオンの泣き顔ばかりがチラつく。
側に居たい、笑顔が見たい、俺が守ってやりたい、他の奴になんて奪われたくもない。

ーーーーそう思うは、シオンにユキトの面影を重ねているからだ。それ以外の理由なんて、いらない。
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