君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する
「・・・怒鳴って悪い」
「気にしなくていいよ、俺がライの感情を煽ったのが悪いし。その、葛藤させる様な事を言って悪かった、本当は、ユキトかシオン、どっちかで悩む必要なんてないんだ」
「・・・」
「最初に言ったろ、種明かしだって。ユキトの死を嘆くのならば、尚の事、シオンの側にいてやって欲しい」

ギギギっと、重低音の扉が開く音が鳴る。
ライがそちらに向くと、橙色の髪を揺らす清楚な女性が、扉の奥から顔を出し、こちらに向かって歩いてくる。
その女性は、ヒカルの隣に並ぶ。

「ヒカル君、意地悪しすぎ、聞いてて焦ったかったよ、もぉ」
「あの、もしかして、そちらの女性は」
「初めまして、剣士様、サクラコと申します」
「あ、やっぱり」

サクラコは柔らかく笑む。
そして・・・。

「あのねライ君。シオンちゃんは、ユキトちゃんなの」
「は?」

軽い口調で言ってのけるサクラコに、ライは怪訝そうに眉を寄せる。
余りにも太刀が悪すぎる冗談だ。
ラビア国の姫だろうが、ライはお構いなしに「不快だ」と言わんばかりの憤怒を表し睨み付ける。
その悍ましい迫力に、サクラコは咄嗟にヒカルの後ろに隠れる。

「そう睨まないでくれ。サクラコも、シオンを思うが余り少し先走った発言をしてしまっただけなんだ。とりあえず、俺の話を、最後まで落ち着いて聞いてくれないか?」

ヒカルはサクラコの発言を一切否定していない。
気持ちを整わせる為に、ライは呼吸を深く落とした後「分かった」とだけ答えた。

「四年前になる、ラビア国を旅し、ある森の河原で休憩をとっている時だ。人間の女性の遺体が流れて来た。救い上げ、すぐに状況を確認したさ、無惨な姿だった。その女性に何が起こったのか、何となく察したよ」
「・・・」
「その女性に触れた時、まだ僅かに肉体に留まっていた思念を読む事が出来た。とても純粋で、優しい心根を持つ女性なのが分かった・・・救えるものなら救いたい、そう思ったんだ。だから、駄目元で俺は自分の血をその女性に与えてみる事にした」
「血、を?」
「駄目元だよ、俺も史実として教わっていただけで半信半疑だった」
「・・・」
「寿命を全うしていない亡くなった人間に、魔王一族の血を与えると、微少の確率で、魔族として再生される事があるそうなんだ」
「何、馬鹿な事を言ってるんだ・・・そんな訳、ないだろ?」

喉が乾く、声が掠れ震える。
震え出す足。
早鐘する心臓と脈。

ヒカルの伝え様としている事柄に、ライは「まさか」と言うふざけた渇望が湧き、頭がおかしくなってしまいそうだった。
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