君とリスタート 剣士様は抱き枕を所望する
第十話「剣士の恐れ」
ライがシオンの所に向かう最中での事。
赤い魔鳥が、サクラコを抱き寄せているヒカルを運び、ライはレモンに運ばれていた。
ヒカルは少し口籠もりながらも、ライに尋ねる。
「なぁ、ライ」
「ん?」
「俺が口挟むべき事ではないが、お前は、シオンとユキト、別々の存在として接して行くつもりか?繊細な話題だが、シオンに本当の事を話しても、俺は構わないと思ってる」
「言うつもりはない」
「ユキトに襲いかかった最悪を話せと言っている訳ではない。ただ、自分がユキトなのだと言う事実だけならば、シオンは驚くだろうが、きっと素直になるきっかけにはなると思う。それにもし、ユキトの顛末をシオンに話たとて、シオンならば、シオンなりの答えを出して進もうとする筈だ」
「ユキトの記憶が、シオンに戻らないと、断言出来るのか?」
「それは・・・分からない」
「俺は、シオンにユキトの記憶が戻るのを一番恐れてる。物語として顛末を知る事と、自身の体験下として記憶に置く事とは、天と地ほど違う。ほんの些細な話を切っ掛けに、ユキトの記憶がもしシオンに戻ったらと思うと、怖くて仕方ない。醜い奴らの記憶など、断片すらシオンは思い出す必要なんてないんだ」
ライの眼に殺意が帯びる。
ユキトを奪った奴らに向けたものなのか、それとも、無能だった自分に対するものなのか。
「・・・すまない、軽はずみな言動をした」
「いいさ、俺達を思っての事だろ。それにヒカルも、記憶が戻る可能性を懸念して、ユキトに『シオン』って新しい名前を付けたんだろ」
「そうだな。ならば、自力でシオンを素直にさせて見せるんだな。今、ライが告白した所で、ユキトの二番煎じ扱いされてるとしか、シオンは思わないだろうから」
「お気遣いどうも。まぁ、慌てず、じっくり攻めるさ」
見えて来た目的の森。
「俺とサクラコは外側で待ってる」
「あぁ」
「それと、ちょっと意地悪を言わせて貰う。妬く覚悟だけはしておけ」
「何の事だ?」
「シオンの俺に対する笑顔は、とびきり可愛いぞ」
「言うな、そう言うこと。レモン、俺を早くシオンの所まで頼む」
「キュキュ~」
レモンは嬉しそうな鳴き声と共に、森の中へとライを運び入れる。
「・・・ヒカル君って、本当にシオンちゃんを大事に思ってるよね」
「サクラコも妬いてる?」
「少しね。でも、シオンちゃんだから許す」
許すと言いつつ、サクラコの顔は不貞腐れ顔である。
紳士を貫きたいヒカルだが、番の可愛い仕草には、強固な理性も簡単に破られる。
「ちょ、ヒカル君!何処触って、手がやらしくなってるっ、落ち着いて!!」
「・・・可愛い過ぎるサクラコが悪い」
緩んだ表情で暴走するヒカルを止めたいが、生憎空の上、反撃が難しい。
「ら、ラズ君!早く下まで降ろしてっ」
「キュゥ」
ラズベリー。赤い魔鳥の名である。
ラズビリーは、サクラコの命のままに、安全運転で二人を地上へと運ぶ。
第十話「剣士の恐れ」終