君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する
「シオン」

ライが静かに名を呼べば、ビクンっとシオンの肩が小さく跳ねた。
昨日、ライに言われた拒絶の言葉を鮮明に思い出し、また涙が目元に浮かぶ。

「仲直りしよ、昨日は酷い事を言った、本当にごめん。泣かせて悪かった、シオン」

シオンは一晩中親熊のもふもふぬくぬく癒し空間で泣かせて貰い、自分の中で理解した感情があった。
どうしてライの言葉や態度が、あんなに棘々しく胸を抉り、悲しくなったのか。
それは恋慕を、ライに感じていたからだと。
でもライには自分に良く似た、亡くなった恋人、ユキトがいる。
おそらく仲直りの言葉も、自分が泣いてしまったからだ。
ユキトを泣かせた様で、後味が悪くなっての謝罪なのだろう事は、シオンも予測が付いていた。

「謝らないで。私が、ライの迷惑になっていたのは事実だし。私の方こそ、無理やり同行する様な事しちゃって、ごめんなさい」
「シオンは悪くない、謝るな。俺は、シオンを迷惑だなんて思った事ない。一緒に居られて楽しかったよ」
「うん、優しいねライは。仲直りしに来てくれてありがと。私はこの後任務に戻るし、ライも」
「ちょっと待て、俺は謝罪だけの為に、シオンの所に戻って来た訳じゃないし、ましてやお別れするつもりもない。仲直りして、告白する為に此処に居るからね俺」
「は?」
「シオン好きだ。夫婦になろ」
「・・・」

忘れられない女が居る癖に、何言ってんだこの男は。
と、シオンは怒りが沸く。
似ているとは言っても自分は決してユキトではない。
恋心を自覚した以上、また再び、ライの側でユキトの代用品として活用され続けるなんて、そんなの惨めで虚しいだけではないか。

ーーーー私は、私自身を見て、愛して欲しい。

恋心が耐えられぬ程に膨れ上がる前に、綺麗さっぱり断捨離して、ライの事などさっさと忘れるべきだと、シオンは考えている。

「お断りだ。ライの飯事遊びに付き合うつもりはもう無い」
「今は信じて貰えないのは当然だ、でも、シオンが信じてくれるまで、何度だって伝えるよ」

シオンはまだ気が付いていない。
シオンの首にはすでに桃色金剛の銀鎖が掛けられ、朝日が当たり美しく光輝いている事に。

「さぁシオン、森を抜けよ。ヒカルと姫様が外でお待ちかねだ」
「え、魔王様とサクラコが。どうしてお二人が?」

魔王の名を耳にした途端、花満開で可愛い笑顔を撒くシオンが気に食わず、ライは今一度、シオンの唇を食し始めた。


第十話「ただいま、おかえり、リスタート」終
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