君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する

「お前たちの絡れ喧嘩のおかげで、だいぶシオンの所に戻るのが遅くなったじゃねぇか」

ラビア城でヒカルとユウイチの歪み合い喧嘩が目処がたった頃には、既に陽が傾きだしていた。
もう時期、暗くなる。

ヒカルの表情は、まだ納得いってなさそうな不機嫌面だ。
シオンの言っていた事をライは思い出すーーーー魔王はサクラコに男が絡むと可愛くなると。
シオンが、俺をヒカルの元へ出向かせたくなかったのもちょっと頷けるな、とライは微笑を落とす。
不機嫌なヒカルの横では、そんなヒカルと真逆の、王都の賑やかな様子に興味を唆られ楽しそうにしているサクラコがいる。

「いいんですか?姫様。今日くらい、お城で家族団欒しても良かったのでは?王様も王妃様、城をお暇する時、どこか寂しげな様子をしておられましたよ」
「分かってないな、ライ君は。うちは、その家族団欒が物凄く大規模になっちゃうのよ、一瞬で色んなお家の方々が集まっちゃうんだから。その度に『清楚なお人形』として他者から視線や言葉が注がれてさ・・・ほんと、苦手。でも小さい時は、私が褒められて嬉しそうなお父様とお母様を見る度、その型に嵌まらなきゃって頑張ってたのよ」
「頑張り屋さんだったんですね、姫様は」
「だからね、魔王城に居る時、ヒカル君に好意を向ける女の子達の、私を嫌悪する態度がとても新鮮で楽しかったのよね」
「それはそれは」
「でも、シオンちゃんだけは私に常に優しかったのよ。ヒカル君、一応魔王と言う立場だから忙しかったし、私が生活に困らない様に、寂しがらない様に、シオンちゃんがいつも傍らで面倒をみてくれていたの。魔王城では、ヒカル君よりシオンちゃんの優しさにときめく事の方が多かったな私。さ、早くシオンちゃんの所に向かお」
「そうですね」

ライは指笛を鳴らす。
するとレモンが何処からともなく飛んできて、キュッキュッ歌を奏でながら嬉しそうにライの肩に止まる。
レモンはシオンの相棒だが、ライともすっかり打ち解け仲良しだ。

「レモン、シオンの場所分かるか?」
「キュ」
「よし、じゃ、案内頼む」

レモンは、自信満々に主が居るであろう方角に、嘴を向ける。

因みに、ヒカルの機嫌は今だ直らず、おどろおどろしい顔付きになったままだ。

「姫様、空気が重苦しいんで、そろそろヒカルの機嫌を直して貰えませんか?」
「今、ヒカル君を下手に慰めると、私がとんでもない甘美を受けそうだから嫌。暴走したヒカル君って、場所、時、状況を選ばずエッチになるのよね。アレはもう本当に勘弁して貰いたい」
「ご苦労されてるんですね」

レモンの嘴案内の元辿り着いた場所は、ライが王都を訪れる度に顔を出す、馴染みの焼き鳥が旨い飲み屋だった。
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