君とリスタート 剣士様は抱き枕を所望する
「この寝ちまった可愛いお客さんをどうするかな。強引に起こすのも可哀想だしね」
「お代は私が出すわ、可愛い愚痴を聞かせて貰ったお礼に。何なら、私たちが予約した宿に一緒に連れて帰ってもいいし」
「女剣士様のカナ嬢がそう言ってくれるなら安心だ、任せるよ」
カナの申し出に、焼き鳥屋の女店主は、可愛い客の睡眠を邪魔せずに済んだと笑う。
そこに新たな来客。
待ち望んだ顔に、店が一気に活気に溢れる。
「ライ!」
「ライ様~」
「ようやく来たか、氷の剣士!!」
ライの回りに出来る人だかり。
まだ完全に陽が落ち切る前だと言うのに、既に酒に酔わされてる者も多い。
ドン!!
女店主が机を叩き、睨みを聞かせながら一言・・・。
「騒がしいよ」
「はい、御免なさい」
小さい謝罪の言葉がちらほら聞こえ、店の雰囲気に落ち着きが戻る。
「いらっしゃい、ライ。いつものでいいかい?」
「すいませんスオウさん。飲みに来たんじゃないんで」
スオウは、女店主の名である。
スオウの瞳に、ライと一緒に店に来た若い男女の姿が映る。
「おや、お連れさんと一緒だね」
「あぁ一応紹介しとく。魔王のヒカルと、ラビア国末姫のサクラコ様だ」
ライはふざけた様子もなく、難なく言って退ける。
予期せぬ、とんでも無い来客二名に、一気に静まりかえる店内。
そして、その場に居合わせた数人が同じ思考を持つーーーーライと末姫様が番契約した、と言う噂は本当だったのではないかと。
常に哀しく冷めた空気を纏い、切れ味抜群な眼をしていた゛氷゛の剣士様、ライ。
なのに今、その場に居るライからは、以前の赴きが全く感じられない。
力が入って強面だった表情は何処へ消えたのか、とても柔らかく解れている。
ライに、何かしらの心の変化が訪れたであろう事は、ライを知る誰しもが、簡単に予想が付いた。
腹の虫はまだまだ収まっていないが、ヒカルは、魔族の長として万人受けする笑顔を携える。
「ライの友人のヒカルです、どうぞお見知り置きを。それと、勘違いなされません様に、サクラコは、俺の番ですので」
ヒカルは、己の独占欲を隠す事無く、サクラコを抱き寄せ、そう告げた。
素直過ぎるヒカルに、ライとサクラコからは苦笑いが漏れる。