君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する
ライは店内を見廻す。
目的の人物は、長机の端の席に座り、顔を伏せている。

「よぉ、カナ、久しぶりだな」
「珍しいじゃない、アンタの方から私に話掛けて来るなんて。言っとくけど、アンタには私、全く興味ないからね」
「知ってるよ」

カナは、何に対しても可愛い物好きとして有名な剣士だ。
“猫”の名称も、気に入った相手を猫可愛がりする所から来ている。

「可愛い子を愛でながら、折角いい気分で飲んでるんだから邪魔しないでくれる。アンタに構って貰いたい奴らなんて他に幾らでもいるんだから、其方の相手してたらいいでしょ」
「愛でたくなる気持ちは分かるが、他を当たって貰えるか」
「は?」

ライは、カナの隣で眠っているシオンを簡単に攫い、自分の懐へと抱え込む。
ライの腕にシオンの重みが乗り、コテンっとシオンの頭は、ライの肩へと寄り掛かる。
移動させられた揺れのせいか、シオンは重たい瞼を少し持ち上げる。

「にゃい?」
「悪いな、待たせた」
「にゃいだ~」

ライの首に、シオンの腕が巻き付く。
ご機嫌な様子で、ぎゅうっと力を込め、自分に甘え出すシオン。

カナは溜息を付き、何となく全貌を察っする。

「暫く見ない間に、氷の剣士とあろうアンタが、随分と締まりの無いゆるゆるな顔する様になったじゃない。どうやら、そのお嬢さんを弄んでる訳じゃなさそうね」
「当たり前だろ」
「もしそうなら、今此処で、アンタに決闘を申し込んでいる所だったわ。可愛い子を泣かせる奴は、誰であろうと敵だもの」
「泣いてたのか?」
「いいえ、ただ、可愛い愚痴を聞かせて貰っていただけよ。ライさ、そのお嬢さん、捨てた事あるの?」
「・・・ある」
「やっぱり、決闘、申し込むべきかしら?」
「反省してるよ」
「その娘、ライの事、一切信用してないわよ」
「知ってる。俺が悪い、焦らず口説いていくつもりだ」
「手っ取り早く抱いてあげれば?口だけじゃ、思う様に熱が伝わらない時だってあるのよ」
「あ~うん、まぁ、そうなんだけどさ」
「何?お手のものでしょ?」

ライは返す言葉を濁し、何故か空虚を見る。
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