君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する

番外編「一線を越えられない、本当の訳」


シオンに触れると、どうしても気持ちが浮ついてしまう。
嬉しくて、気分が高揚する。

口付けする度に漏れる苦しげな甘い吐息も、粘着音も、熱く蠢く口内も、全部が思考をおかしくする。
もっと、もっと、と求める欲が増す。
口付けだけで脳が痺れて、理性が溶かされる。

優しく唇同士が重なっているだけでも、幸せを感じる。

ーーーーこんなに滾る女は、終生シオンだけだ。


*****


「・・・ライ」

とある宿屋で、俺に組み敷かれながら、小さく呼ぶ声。
何か、求め訴える様に、俺を見てくる。

「何処を触って欲しい?」
「・・・意地悪、言わないで」
「シオンの気持ちいい場所、触ってあげるよ。ね、だから教えて」
「ライが、触る所なら、何処も、気持ちいいから、聞かないで」

まぁ、ユキトの時に散々、研究しまくったからな。
コイツの何処を虐めれば、より一層の快楽を味合わせてあげる事が出来るかなんて、とっくに知り尽くしてる。
でも、言わせたい。
可愛いおねだりが聞きたい。

「俺に、どうして欲しい?」
「・・・なら、最後まで、抱いてよ」
「シオンは意地悪だな」
「先に、意地悪してるのはライでしょ」

ごめんなシオン。
本当は最後まで抱いてしまいたいし、今すぐ深く繋がりたいと、俺も思ってる。
でも今はまだ、俺にその準備が整っていないんだ。
口付けだけで、我を忘れそうになる俺にはまだ、シオンを最後まで抱く勇気が持てない。

何度も、何度も、シオンに触れ、可愛い嬌声を聞き続ければ、ユキトからシオンに心が移ろいでいくと思うから、そしたらーーーー呼び間違える心配もなくなる筈だから・・・。

どうしても、今はまだ、ユキトの名前を呼びたくなる。
一つに繋がった瞬間、俺は悦びで気が狂い・・・呼んでしまうだろう、ユキトの名を。
自分の事だから分かる。
俺にとってユキトは、やっぱり忘れられない大切な女の子なんだ。

「仕方ない、おねだりはまた今度挑戦するよ。じゃ、確認だけど、俺の好きにシオンを泣かせても良いんだよね?」
「え、そんな事、言ってないけど」
「大丈夫、シオンはただ、気持ちよさに溺れて泣いてれば良いから」
「ちょ、待っ」
「待つわけないだろ?こんなに、可愛いのに」

まぐわい最中に、他の女の名を呼ぶなんて以ての外だろう。
少なからずシオンにとってユキトは、及ばない恋敵みたいなものだからな。
ただでさえ俺の告白はいつも捨て置かれるのに、名前の呼び間違えなんて起こした日には、挽回がさらに難しく拗れてしまう。

もし、最後まで抱けるその日が来た時シオンは、俺の告白を素直に信じて、受け入れてくれるのだろうか?


番外編「一線を越えられない、本当の訳」終
*↓シオン視点*


「・・・なら、最後まで、抱いてよ」

私への気遣いなんてしなくていいの、呼び間違えてもいい。
啄む口の形のまま、私を呼んでくれて構わない。
だから、そんな切なそうな、泣き出してしまいそうな、苦しそうな顔しないで、ライ。

強引に、私の名前を呼んで貰えても、それは酷く悲しい気持ちになるだけ。

ユキト。
ライの幸いな女性。
私じゃ、到底及ばない相手。
心は欲しないからーーーーせめて、快楽は満たさせてよ、貴方で。
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