君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する

番外編「失った日常」

「うぁぁぁぁぁっ!!!」

大きな呻き声をあげ、ライは手持ちの剣を振りかざす。
何度も、何度も。
その度に、木の幹や枝が、切り落とされて行く。


*****


山の中から、ライの痛ましい叫びと、何かが崩れ壊れる音だけが鳴り響く。
もう何週間とそれは続いている。

「・・・あの子が、ライが、帰ってくる事はもう、ないかもしれないわね」

少しお調子者ではあるけど、明るく、何やかんやで困っている人を見捨てる事の出来ない優しい息子。
今の息子は、心を病み、ひたすらに荒れ狂っている。
山で体力が尽きるまで暴れ回り、現実を拒み続けるばかり。
でも、それを誰が咎められると言うのか。

ーーーーライは本当に、ユキトが大好きだった。

それは村中の皆が知っている。
二人は、小さい時からいつも一緒だった。
真面目で面倒見の良いユキトが、物ぐさなライをしょっちゅう叱り、躾けていたと言っても良い。
ライは、その度にユキトに構われて嬉しそうだった節があるので、おそらくわざとユキトを怒らせていたんじゃないかとは思ってる。
村の皆は、そんな二人の成長を仄々しく、世話を焼きながら見守っていた。

なのに。
こんな二人の結末、誰も想像出来やしなかった。
ごめんねユキト、助けてあげられなくて、迎えに行ってあげられなくて、見つけて上げられなくて。

ドンッ!!!
夜中に、今まで以上の物凄い轟音が響く。
それを最後に、山からの音は消えたーーーーそして、ライも。

「・・・何処に居ても構わないから、どうか、ユキトの後を追おうとは、しないで、ライ」

ライがユキトに会いたがっているのも知っている。
ユキトへの愛情がどれ程まで深く根強いかも。

でもどうか、絶望の中で、生きる選択をして。


番外編「失った日常」終
ユキトを失った後の、ライ母視点。
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