君とリスタート  剣士様は抱き枕を所望する

宿の温泉にも浸かり、浴衣姿で指定された部屋へと入る。
一組しか用意されてない布団を眺め、ある意味、ライが女将さんにした提案は正解だったな、なんてシオンは思う。
おそらく、ライはもうシオンに関わってこない。
職業を知られてしまった。
姫の奪還を狙うライにとって、魔王と関わりのある自分はいわば厄介者だ。

「・・・もう寝よ」

よく日干しされている柔らかい布団にシオンは潜る。
そして自己嫌悪に陥る。

私の阿保!どうしてあの場面でレモン(檸檬色の魔鳥の名前)を呼んじゃうかな私は!!
あの魔族の強盗を一時的に魔力封じの呪詛を掛けて、普通に役人に任せれば、あとは役人から警備隊の方に連絡が入るから、私がでしゃばる必要はなかったのに〜。
でもでも、魔族に怯える村人や観光客達の不安を少しでも早く解消するには、レモンに強盗を託し村から追い出すのが一番最適だったと思うし。
申し訳ありません魔王様、私はまだまだ未熟な半人前魔族です。
魔王様のお役に立ちたいのに、上手に立ち回れません。
・・・魔王様に幻滅されたらどうしよ。
せめて、明日の早朝、魔王様宛に知らせの文を飛ばそう。
『剣士ライが魔王城に向かってます』と。
多忙な魔王様に知られず、私一人で解決したかったが、どでかい熊を片手で軽々止めてしまえる相手に、私が力任せ手法を使ったとて敵う分もない。
でも、ライでまだ良かった。
ライは悪い奴じゃなさそうだ・・・サクラコの奪取も、きっと穏便な方法を考えてくれると思う・・・まぁ、魔王様相手に、成功はしないだろうけど。
私は任務に戻り、王都を目指そ。


*****


「・・・ユキト」

眠るシオンの頬に微かに触れながら、ライは呟く。
そして、シオンを起こさぬ様に静かに布団の中へと入り、シオンを抱きすくめた。
シオンの菫色の髪を撫で、瞼に口付ける。
瞼の奥に隠れてる群青色の瞳を、今すぐ拝見したくて堪らない。

ーーーどうして今、此処に居るのが『ユキト』じゃないのだろう。

シオンを、もう何処にも居やしない自分の恋人と重ね合わせ、愚かな事を思う。

昨日、森の中で眠るシオンを見つけた時、愕然とした。
寝返りを打って動く仕草に、涙を抑える事が出来なかった。
目を覚ましたシオンには更に驚かされた。
独特の群青色の瞳も、弾ける愛らしい声も、彼女とブレる事なく酷似している様に。
まるで、彼女が生き返ったんじゃないかと、都合の良い妄想に取り憑かれてしまいそうになる。

「分かってる、どんなに似てても、君はユキトじゃない」
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