[短]好きで、それから、大好きで。
好きで、それから、





夏が終わる実感なんてまるでなかった。

学校はもう始まっているし、明日から涼しくなるわけでもない。

だけれど、カレンダーの8月31日の文字を見ていたら、ざわざわと落ち着かなくなった。


メッセージアプリでやり取りをしていた相手に、また明日と一方的に会話を切って、カーディガンを羽織る。


部屋を出て、念のためリビングを覗いた。

くつろぎモードのお父さんとお母さんに声をかけると、同時にパッと振り向く。


「コンビニに行ってくるね」

「今から? 車出そうか」

「ううん、大丈夫」

「それなら、明るい道を歩けよ」


時間は夜の10時を過ぎている。

普通なら、引き止めたり叱ったり、車で送っていくと押し切るところだろうけれど、うちの家族はその辺りが緩い。

心配をしていないというわけではなく、理由をつけるのなら、わたしが夜にコンビニに行くことが珍しくないからだ。

お母さんも、スマホは持ってるの? と確認するだけ。

コンビニが徒歩5分ほどの場所にあることも大きいかもしれない。

家を出てすぐの大通りには、夜まで営業している飲食店やスーパーが建ち並んでいて、明るくない道を見つける方が難しい。


「いってらっしゃい」

「遅くならないようにな」


両親にその場で見送られ、玄関に向かう。

お祭りの日に出しっぱなしにしていた下駄を履いた。

何となく、スニーカーやサンダルの気分ではなくて。

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