[短]好きで、それから、大好きで。
外に出ると、生ぬるい風がべっとりと肌に張り付くように流れていく。
できるだけ、ゆっくりと歩いた。
左足が地についたら、右足とぴったり合わせてから、次の一歩を踏み出すように。
ポケットに入れていたスマホがピロンと音を立てる。
先ほどまでやり取りをしていた相手だった。
また明日、と書いているのだから、会話を続ける必要はない。
おやすみとでも送ってきたのかと思ったら、わたしが返事をせずにはいられないような一文。
『寝んのはや笑』
最後に笑マークをつけるときは、高野くんが少し困っているときだ。
困っているというか、わたしの自惚れでなければ、まだ話を続けたいけれどはっきりとそうだとは言えないとき。
『高野くんもたまには早く寝なよ』
『氷見さんが寝るならね』
『寝るから高野くんも寝て』
『返事が来るうちは起きてるってことでしょ』
文字を打っている間は足を止める。
一向にコンビニに着く気がしなくて、一旦返事を止めて歩き出すと、ピロンピロンと通知音が追いかけてくる。
『氷見さん』
『何してるの』
鈍いのか察しがいいのかわからない。
例えば普段なら起きている時間に、脈絡なく会話を切ろうとしたら、もしかして何かあったとか悩みでもあるのかとか、そういう考えに行き着くものなんじゃないかな。
友だちとのやり取りは、返信が必要ないと感じたらすぐに切ってしまう。
ちょっと冷たいんじゃない? 誤解されないようにねって、特に仲のいい友だちに忠告されるくらいには。
何でもないやり取りを、終わらせるのが惜しくて続けてしまうのは、高野くんだけだ。