[短]好きで、それから、大好きで。
8月31日の夜を跨ぐのはそんなに難しいことじゃない。
何もせずにいればいいのだ。
心臓がドキドキして落ち着かないのなら、時計やスマホはそっと伏せていればいい。
もったいなくて、さみしくて、季節は等しく移りゆくものだと知っているのに、来年まで待つことがなんだかとても、とても遠くに思えてしまう。
ざわざわと、忙しない。
だからって、どうしたらこのざわつきが収まるのかを知らない。
高野耶摘くんは同じクラスで席が近くて、体育祭をきっかけを他のクラスメイトよりもほんの少しだけ、仲良くなった。
行事や課題に関係のないやり取りをするようになって、高野くんのそばにいると、自分の笑顔が増えることに気付いて。
高野くんのことが好きなんだって、たぶん、高野くんもわたしのことを好ましく思っているって、もうとっくに気付いてる。
本当は、この夏もふたりで会いたかった。
どちらかが勇気を出したときには、どちらかが臆病で。
そうやって言葉を濁すうちに、本音が薄い膜を張るようになって。
長い長い夏休みが明けて、教室で対面したとき、わたしも高野くんもどこかぎこちなかった。
それが寂しかった、それも寂しかった。
誘えなくて友だちと行った夏祭りも。
夏限定の水族館のイベントも。
美味しいと評判のジェラートも。
暑い夏の、何でもない一時も。
本当は、高野くんと一緒に過ごしたかった。