[短]好きで、それから、大好きで。


まだしゃがんでいる高野くんから少しだけ距離を取ろうとしたら、手をぎゅっと握られた。

ひぇっと情けない声が漏れて、反射的に引き抜こうとするけれど、力を込められると全く抜け出せない。


「家近いって教えたの」

「お、怒ってる?」

「教えたの?」

「教えた、けど、どこから来たのかって心配してくれてたから……」


すぐに理由をくっつけないと、高野くんがもっと怒る気がして、語尾が尻すぼみになりながらも伝える。

高野くんは、はあっと大きな息を吐いて、わたしを見上げた。


「心配した」

「うん……ごめんね」

「さっきの人たちよりずっとだよ。心配したし、焦った」

「高野くん」


逆の立場だったら、といちいち転換しなくても、声や表情、掴まれた手から、痛いくらいにそれが伝わる。


「来てくれて、うれしい」


心配に対して返す言葉として、正しくないことはわかっている。

何事もなかったから良かった、で終わる話ではないことも。

けれど、何より、高野くんが今ここにいて、手を繋いでいることが、末端がじんと痺れるほど、うれしい。

< 8 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop