幾度ものキャトルセゾンを見送って【新作】
七北田公園を、夏川さんのシャツの袖をつまんで散歩した。

「そういえば、珍しくお姉ちゃんから電話かかってきたんだけど、何だか様子が変だったの」

「相続放棄したお姉さん?」

「うん」

姉は、昔こそ1年に1、2回は実家に帰省していたが、私が中学生になった頃から全く実家に寄り付かなくなり、理由を尋ねたことがある。

「私、もう嫁いだ身だから、帰省するのはやめたの」

「え?結婚してるからって帰省しちゃいけないことはないでしょう」

「じゃあ、ハッキリ言うわ…。私、もう親とは関わりを持ちたくないの。オリエも知ってるでしょう?母親は虚栄心が強くてヒステリックだし、父親は浮気三昧だし。もう、うんざりなのよ」

母親が心臓を患っていることを話しても、

「私、両親の遺産は一切相続しないから、その代わり、親のことも私はノータッチにさせて欲しいの。申し訳ないけど…」
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