幾度ものキャトルセゾンを見送って【新作】
私が人並みにしっかりしていて、変なこだわりがなければ、こんな気持ちにはならなかったかもしれない。

「そうそう、安心して。お姉さんなら、ちゃんと家に戻ったそうだよ」

「一体、何があったの?」

「旦那さんと喧嘩して家を飛び出したけど、行くあてもない、お金もないから、最寄り駅周辺をウロウロした末に戻ってきたって。灯台下暗しだったみたいだね」

私は、姉にとっても全く頼りにならないのか。

それ以前に、私には親しみすらなさそうだ。

警察も言っていたように、肉親はもう互いだけだが、姉が私のことをあまり好きではないことは、ずっと前から感じていた。

かつて、まだ大学進学を考えていた頃、

「私、名古屋大学を受けようかな。知人皆無の場所より、お姉ちゃんの家が近いほうが安心だし」
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