亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「あ、貴方、危ないからあっちへ逃げて!」

「ん? それは大変だ。それでは君も危ないという事だな」

 巻き込むわけにはいかないと、マキラは叫ぶ。
 だが彼は、当然のようにマキラの方へ近づいてくる。
 シャラシャラと彼のネックレスや腕輪が、揺れる音がした。

「ちょっと! 来ちゃダメよ!」

 しかも男は、帯剣もしていない。
 あらわになっている両腕の筋肉から鍛えていることはわかるが、禁魔道具に素手で挑むなどもってのほかだ。

 マキラは焦る。
 自分も半分トラブルの仕掛け人である。
 それに巻き込んで、男に大怪我……いや、命を落とされでもしたら……!

「逃げて!」

「ならば君も俺と一緒に逃げねばならない。君を置いてはいけないよ。危険なんだろう?」

「そ、そうだけど……」

 近づいてくるが、彼から危害を加えるような殺気は感じない。
 少し男の正体を見極めようと、未来を見ようとしたが……何も見えなかった。

「え……? 見えない……」

「ん?」

 マキラが先を見ようとして、見えない相手などいないはず……。
 いや、今は焦りで集中できないからだ。
 何故? と思う間もなく、男はマキラの横に立っていた。

 ぎょっとする、この男、自分の話を何も聞いていない!?

「だから、い、今はいいから逃げて!」 

「だが、俺は逃げるのは嫌いなんだ」

「えっ……」

「君もそうなんだろう?」

 優しく、そして力強い瞳。
 黄金と紅色を混ぜた炎のようにキラキラしている。
 
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