亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 知らない男なのに、包みこまれるような不思議な感覚だった。
 まるで運命からの問いかけのように感じた。

「えぇ。そうよ。逃げるのは嫌いなの」

 自分が大の負けず嫌いだと、自覚があった。
 逃げるしかない運命にずっと翻弄されている――だからこそ、本当はいつだって、逃げたくない!

「何言ってんだ! てめぇら!! でけー図体してたってなぁー俺の前では無力さ!! 死ね!!」

 男は持っていた鏡を、地面に叩きつけ右足で踏みつけた。

「えっ!?」

 鏡から発動されるのかと思ったが、実際は違った。
 これから何が起きるのか……先読みできるほど冷静ではいられなかった。

「ほうほう、これは珍しいな」

 隣の男は、腕組をして観察している。
 マキラは内心、焦りもあるが男は微塵も感じさせない。
 でもまだ口元は笑っているし、何やらこの状況を楽しんでいるように見えた。

 そして男は、通る声で言った。

「おーい、お前さん、これ以上それに干渉すると死ぬぜ? 使ったら最後。さすがに助けてやれんぞ」

「はははは!! これはなぁ一昔前の劣化物とは違うのさ! 有名な旅商人から買ったもんだ! 高かったんだからな!」
 
「そうか、では自己責任だな」

「八つ裂きにしてやるぜ!!」

 ガラスの欠片から、禍々しい黒い気が溢れ出す。
 男の足が一気に太くなりズボンが弾け飛び、同じように腕も巨大化する。

「お、狼男……!?」

「ふむ……使用者増強タイプか……」

 男の顔も更に凶悪になり、醜悪な……まさに狼男のような牙が剥き出しになった。
 どこからどう見ても、化け物だ。

 怖い……一瞬、脚がすくむ。
 経験豊富なマキラにも、化け物と戦った経験はなかった。

「ぎゃははははは!! 嬲り殺しにしてやる!!」

 狼男が、太い足で地面を蹴ると二人に襲いかかる!!
 自分のなかの恐怖心を抑え込み、マキラは構えた!!

 勝てなくても、負けない!

「貴方は逃げてっ!!」

 マキラは剣をしならせた。
 しかし狼男の手には、ナイフのような鋭く長い爪が五本生えている!!
 そして分厚い皮膚に守られた手で、マキラのベルト剣は弾かれてしまう。

「くっ……!!」
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