亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 自分の力と逆に弾かれれば、その反動はマキラの手にかえってくる。
 激しい振動で、手に痛み走る。
 たまらずマキラは、剣を手放してしまった。

「ぎゃははは!! 殺してから犯してやるからなぁ!!」

 狼男の牙と爪がマキラを襲う!
 もうダメだ! 無事ではすまない。
 でも絶対に、こんな化け物に屈しない!!

 この男を守りながら、どうにかして逃げ……。
  
「おい」

 マキラの前に、一瞬で立った男の背中が見える――。
 
「俺を無視するなよ」

「あ、貴方……」

 狼男が振りかざした右手を、男は左手で、素手のまま受け止める。
 
「なっ……!!」

 そしてその右手が捻れるように、力を込めた。
 なんと狼男はそのまま右手を掴まれ、動きを封じられたようだった。
 慌てて狼男は左腕も振り上げるが、同じように男の片手で受け止められた。

 二倍以上もある腕の太さなのに、狼男の両腕は彼に拘束されている。
 しかし狼男には牙がある。

「噛み殺すっ!!」

「やめろよ、男に口づけなんかされたくないね」

 軽く笑うと、男はパッと両手を上に離すと、狼男は宙へ舞った。

「きゃ!?」

 気づけば、狼男は地に倒れていた。
 男の背後で見ていたマキラは、見た。
 宙に浮いた狼男を、更に男が一瞬で飛んで狼男の顎を強かに蹴り上げたのだ。

 それでも狼男が立ち上がるのではないか、と思ったが……。
 たったの一撃で、狼男はそのまま気絶したようだ。
 泡を吹いている。

「す、すごい……」

 マキラは呆然としたが、男は変わらず微笑んでいる。
 男の香水なのか、シトラスムスクの爽やかな香りがした。
< 16 / 76 >

この作品をシェア

pagetop