亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

汚染と聖なる力

 素手と飛び蹴りで……狼男を倒してしまった謎の男。

「ふむ、強化してこんなものか」

 男の様子は、登場から一切変わらない。
 マキラはただただ、驚くだけだ。

「あ、貴方……」

「君は、怪我はないかい?」

「え? えぇ私は、大丈夫」

 先ほど、剣を跳ね返されて痛みを感じたが、もう大丈夫だ。
 怪我はないかと聞きたいのはこっち……とマキラは思う。

「よかった。少し待っていてくれないか」
 
 動揺もせずに、気絶した狼男を観察するようにしゃがみ込む。
 泡を吹いた狼男は、ドス黒いモヤに包まれている。

 その黒いモヤを見て、マキラは叫ぶ。
 瘴気だ!

「待って! 近寄ると危ないわ! 貴方まで汚染されてしまう!」

「うん……ここまで一体化していると、やはり元に戻れるとは思えないな。はったりで偽物をつかまされたか」

「ねぇ! 危ないったら! ほら、貴方も取り込もうとしているわ!!」

 狼男に触れて観察している男の足元に、黒いモヤがゆっくりと移っていくのが見えた。
 慌ててマキラは、男の腕を引っ張る。
 片腕なのに、すごい筋肉で、がっちり重くびっくりしてしまう。
 男は微動だにしないで、まだ観察をしているようだ。
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