亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「残念だが……彼は処分される事になるだろう」

「自業自得でしょ!? 離れて! ほら! まだ貴方にまとわりついてるわ!」

 マキラはこの禁魔道具から溢れ出る、瘴気の酷さに気付いていた。
 生を呪い、光を呪い、死滅させる恐ろしい瘴気だ。
 この狼男の身体は、血肉全てが最高の呪物となり得る。
 それを回収し、売買する者達もいるのだ。

「大変よ! 貴方の足が壊死してしまうわ!」

 無知にも程があるわ! とマキラは焦りながら思う。

「あぁ。こんなもの……」

「もう! 時間がないから急いで聞くけど、貴方は憲兵とかじゃないわよね? この国の兵隊じゃないわよね!?」

「ん? 憲兵? 違うよ」

「貴方は私を助けてくれたわ。だから私も貴方を助けたいの! ……でもお願い、誰にも言わないでね?」

 時は一刻を争う。
 
「秘密か? わかった誓おう」

 よくわからない変な男。
 でも邪悪さは感じない。
 こんな緊迫した時に、なんて素敵な良い笑顔をするのだろうか。

 それに、何より自分を助けてくれた恩人だ、なんとか助けなければと思ってしまう。

 頷いた彼に、マキラも頷いて目を閉じて手のひらを祈るように合わせる。

 マキラの身体が、淡い光りに包まれる。
 聖なる力が発動した。
 
 聖なる力は、魔術の中で最上級であり神の祝福と言われる――。

 国を追われた王女にとって最大の皮肉だとマキラは思うが、彼女にはその聖なる力が宿っていた。
 聖魔術は闇を祓う。
 
 マキラが祈りを捧げると、男の足にまとわりついていた瘴気が飛散して消えた。

「おお……これは、すごいな」

 男は嬉しそうに笑った。
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