亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「待って、ちょっと怖いわ、心の準備を……きゃっ!」

 男はマキラをより強く抱きしめると、すぐに照明弾を上げた。
 ドン・パーンー!!
 と空に光が伸びて、暗い河原を緑の光が照らす。
 
「もう、待ってって言ったのに!」

 びっくりした! とマキラはポカポカと男の胸を叩いた。

「ははは! うん。綺麗だな」

「え……あ、そうね。不謹慎だけど、綺麗だったわ」

「ふ、俺は腕の中の女性が綺麗だ、と言ったんだ」

「えっ……」

 歯の浮くような言葉。
 しかもマキラは、口元を薄布で隠しているのだ。
 顔などわかるはずもない、ただのお世辞だ。
 普通の男が言ったら、マキラは冷めた目で見てしまうだろう。
 なのに、何故か心臓がドキリとして、彼の胸元にいる自分が急に恥ずかしくなる。

 いやだ、初めて会ったばかりの男性の胸に自然に寄り添ってしまった……。

「あ、あの私は、じゃあもう行くわ」

「俺も、憲兵が来るのも面倒だから退散だ」

「貴方も……そうよね。あの、ありがとう」

 変な夜だ。でも、これで変な時間はもう終わりだと思う。
 そっと離れると、男は優しく腕から開放してくれた。

「礼を言うのは俺の方だよ。なぁ……これから一緒に酒でも飲まないか?」

「えっ……」

 マキラは今まで男になびいた事など一度もない。
 男嫌いなわけではない。ただ魅力的に思う男がいなかっただけだ。

 なのに何故か、この不可思議で、先読みのできない男の誘いにまたドキリとした。

  
   
 
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